QR淫紋

獅子吼れお🦁Q eND A書籍版7/25

QR淫紋

「ねえ見て……❤」


 俺の目の前に、異様にエロい格好のねーちゃんがいる。もうほとんど裸だ。めちゃくちゃ短いスカートをはいていて、しかも俺に見せつけるように、その裾をたくし上げていく……。


「ごくり……」


 非現実的なほど白い肌は、露出の興奮のためか紅潮している。裾がゆっくり上がっていくにつれて、太ももになにか描かれているのが見えてくる。これはもしかして、『ふとももに正の字』みたいなエロ落書きか?!それともハートマークとかのエロいタトゥー……なんかエッチな効果もあるらしい『淫紋』か?!


「ふふ……❤もっと見て❤」


 女のふとももに刻まれたのは、黒く、四角く、無機質な……。


「QRコードじゃねえか!!」


 見慣れた二次元バーコードだった。スマホとかで読み込むやつだ。


「おい!なんで二次元バーコードなんだよ!普通そこはハートマークとか正の字だろ!もう気になってエッチな気分どころじゃねえわ!」

「QR淫紋よ」

「何だよそれ!なんの意味があんだよ!」

「よくぞ聞いてくれたわね❤説明してあげましょう❤」


 女が一瞬にしてタイトスカートのスーツ姿(エロい)になる。同時に背中には羽が生えているのが見える。


「まあ私は見ての通りサキュバスなんだけど」

「なんだサキュバスかよ。エッチな露出狂のお姉さんかと思って損した」

「エッチな露出狂のサキュバスよ」

「サキュバスはそれがデフォだろ。淫紋だってお前らのオハコだろうが」

「わかってないわね……サキュバスは常に進歩しているのよ。人間だって食欲と性欲のためにテクノロジーを発展させてきたでしょ、私達にとってはそれを合わせたのと同じなんだから、そりゃもうすごいのよ」

「急にそこそこ納得できる論調にならないで」

「話を戻すわね❤サキュバスは人間の性器を吸ってイきてるんだけど」

「エロ小説家のATOKか?」

「精気っていうのは別に物理的なモノでなくてもよくて、ムラついた視線とか言葉とかでもいいの」

「さっきは俺の精気を吸ってたわけか……くそ……弄びやがって……」

「こう、視線とか電波とかに乗って入ってくるのよね❤だから最近はエッチな配信とかやってたくさんの人間から精気を稼いでる子もいるのよね。まあ一番イイのは直接!みなさんから精気を絞ることなんだけど」

「そのジェスチャーをするな!任天堂に謝れよ、あとQRコード作った会社にもな」

「そんなわけで視線でも精気を搾り取れるんだけど、さっきのアナタぐらいのじゃもう満足できなくなっちゃって……❤もっと露骨に見られたい❤なんなら撮影されたい❤となったところで起こったイノベーションがQR淫紋なのよ」

「お前が言うとイノベーションまでエロい単語に聞こえるな」

「QR淫紋には3つのメリットがあるわ❤」

「説明の前に要点の数を提示するな!プレゼンの文法かよ」

「1つ目は読み取るときにスマホやカメラを向けられる必要があることね。ファインダー越しに見られると、欲求の濃度がすごいのよ❤ネコちゃんとかにカメラ向けた瞬間逃げられることがあるでしょ、あれと同じ」

「だから急に納得できる例を出すな」

「2つ目は淫紋にたくさんの情報が入れられることよ❤ほら、読み取ってみて❤」

「そこまで言われると気になるな……ちょっと読み取ってみるか」

「あ、ああ……ああーーーー❤」

「うわっ手にかかった。いちおう淫紋らしい機能もあるんだな。なになに……名前に3サイズ、性感帯、可能なプレイ……この3つと半分ぐらい並んでるハートは?」

「レビューよ❤」

「レビュー?!うわほんとだ。『最高でした』『もっとおっぱいが大きいといい』……『他に400件のレビューがあります』じゃないよ!最悪のAmazonかよ!じゃあこの15201とか書いてあるのは?まさかキルスコア……」

「インスタのフォロワー数よ❤」

「すげえな!?あっここからインスタにアクセスできる……『今日のディナーです❤』ってオッサンの写真上げるんじゃないよ!?」

「こんなふうに、連絡先や各種メディアへのリンクを入れられると便利でしょ❤ほらサキュバスってほとんど服きないからスマホとか名刺持ち歩けないし」

「そんな『女性ものの服にポケットが少ない』みたいな話だったの?!」

「ちなみにラインで読み取ってお友達登録すると、次回搾り取るときにプレイ一個サービスするわよ❤」

「ラーメン屋かよ!それで3つ目のメリットは……さすがに魔法的なのが来たりするのかな……」

「QR決済ができることよ❤」

「ウソだろ?!」

「ペイペイとメルペイとラインペイと楽天ペイが使えるわ❤」

「相当万全なタイプのやつじゃん!?」

「さっきも言ったように、エッチな配信とかP活とかで精気とお小遣いを同時に稼いでる子も最近は多いんだけど」

「P活って……」

「プロテイン活よ❤」

「一足とびに生々しくなるな!そっちならもっと直接的なPがあるだろPが!」

「これもさっき言ったけど、視線や言葉でも精気は吸えて、でもやっぱり実体があったほうが美味しいのよね❤だいたいの場合は体液なんだけど、お金もけっこう相性がいいのよ。ほら、人間もパンツとか谷間とかにチップ挟むでしょう?」

「あれってそういう理由だったの?!」

「そういうわけで、金銭のやりとりを使って精気を搾り取ると、けっこうスゴいのよ❤だからQR決済もできるQR淫紋が便利なのよ❤」

「キャッシュレス化の波に乗るな!」

「以上の3つが大きなメリットだけど、他にも、日本語で体にエッチな落書きをするより世界中の人に見てもらえやすかったり……」

「こっちはグローバル化かよ!確かに正の字で数えるとか日本でしか使わないけど!」

「あとはQRコードのメリットとして、汚れたり一部が隠れてもちゃんと読み取れるというのがあるわね❤だからホクロとかが増えてもほとんど問題ないのよ❤」

「QRコード自体のすごいところだよそれは!」

「そういうわけで、どう?私とP活……❤」

「スマホをいやらしい手つきで撫でるな!ていうかペイペイのコードなら胸につけとけよ!胸に!ペイだけに!!!」

「……」

「黙るな!!」

「まあそれはいいとして、どう?❤レビュー3.6はけっこう高いのよ❤」

「さっき見たとき怪しい日本語のやつとかあったけどな?!ていうか俺QR決済って使ってないんだよな。最近はポイント貯めるのにハマってて。ほら、コンビニの提携してるカード」

「ああ、あれね❤使えるわよ❤」

「うそだろ!?」

 サキュバスはまた衣装を変え、犬耳をつけた毛皮ビキニ姿になり、白い下腹部をあらわにした。そこには……。

「カード読み取るところのマークじゃねえか!?下腹部こそハートマークだろうがよ!!淫紋のトロの部分だろうが!!」

「これが最新の淫紋よ❤iDとかクレカのタッチ決済も使えるわよ❤」

「すげえな?!ふともものと合わせてほとんどの決済に対応してるじゃねえか?!もうこのシステム普及させて特許料で稼いだほうがよくないか?!」

「ポイントでも払えるわよ❤あなたずいぶん溜まってるみたいじゃない❤」

 俺はすでに、このサキュバスとエッチなことをするよりも、決済を試したい欲のほうが勝っていた。幸い、ポイントは彼女の言った通り相当たまっていたし、これで騙されても財布に痛手はない。

 俺は、愛用のカードをとりだすと、見慣れたマークのついたサキュバスの下腹部に、近づけた……。

 ピッ。

「ワオ”ンッ❤❤❤」


(終)


※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です


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