第十六話 疫嬢の戦いの果てにⅣ
「——ただいまぁ。お昼出来てる?」
私は塔の周りだったら一人で冒険出来る様になった。レベルも順調に二十九まで上がった。
そして、この世界に来て何日目かのお昼ご飯を食べに塔に帰ってきた。
あの日ポルトスの村に行って以来、直向きに塔の周辺でスライムと戦っている。
魔獣の出来損ないがスライムになるって、アルに教えて貰ったけど、狩っても狩ってもスライムはいなくならない。
理由を聞いても相変わらずで『そんなモノじゃ』とだけ言う。
「今日は海産物を米と一緒に炊き込んでおいたぞ。ワシは忙しいから食べたらまた狩りに行くんじゃよ」
「はぁい」
アルは、実は結構守人の仕事が忙しいらしく、私と村に行ってからは基本的に食事の用意をしてくれるだけだ。まぁ大満足だけどね。
「ねぇ、アル。いつになったらポルトスに行けるの?」
水を石のコップに注ぎながら、足早に部屋から出ていこうとしている、アルを呼び止める。
「まだまだ全然じゃよ」
「私、結構強くなったよ」
スライムは一撃で倒せるようになったし、同じ距離を半分の時間で移動出来るようになってきた。実際強くなった実感はあるし、何より、ポルトスの皆が心配だ。
「魔獣の一匹でも倒せるようになったら少しは役にたつんじゃが、遭遇さえしとらんじゃろ」
と、アル様の仰る通り。
スライムも元の姿が残る程強く、人の形をしてたりする事もあるらしいんだけど、私が倒しているのは丸いブヨブヨのスライムばかり。
「どこ行けば会えるの?」
早く会いたい、早く倒したい。そしてレベルを上げて町を救いたいと思うんだけど。
「別に塔の周りに狩りを制限してないんじゃが、昼食には帰って来るから、強いモノと出会えないんじゃ——」と、そんな新事実を今更になって言うアル様。
離れすぎたら悪いと思ってた私は何でしょうか? 全然大丈夫なのでしょうか?
「だったらこのお昼の残りを、夜の分でお弁当にしてくれる?」
「今日は忙しいからな、明日から準備しといてやろう」
「ありがとうございませう」
ええ、ありがとう。本当にありがとう。きっとアルは私が強くなったから、そのタイミングで言ったに違いない。きっとそうだ。そうでなければただの意地悪爺さんだ。
でもね、待てないんだよ。
塔の中はいつも春の陽気のように暖かく、て凄く居心地が良い。
この世界に来て、最初の頃は特に気にしてなかったけど、木々はどれも高く成長していて、少し森の中に入るとこんなに高い塔がまったく見えなくなる。
もっと奥の方に行くと、太陽の位置もわからなくなる。
陽光は、葉っぱの間からしっかり入って来て、果物や木の実は豊富にあるのだけれど、どうしても、距離感や方向感覚が狂ってしまう。
そうだね、果物はあるだ。弁当が無くても十分遠くまで行ける。私、結構強くなったし。
しかし、それは私の思い上がりだった。
絶対魔獣を倒して強くなってやる——と、私はアルに対する、変な対抗心を燃やして森に入った。
魔獣を倒すまでは、絶対に戻らないつもりで足を前に進める。
単純作業のように出てくるスライムを倒しながら、魔晶石を厳選してウエストにつけた二つのポーチに集める。
良く見ると、大きさや色が違っていて、大きくて色が濃い方が価値があり力も強大だと教えてくれた。
石の厳選とスライムとの戦いに集中していたら、いつからか、陽光は煌めきを失い、森は不気味に紅く染まっていた。
スライムも本来の力を取り戻したように、動きが活発になる。けれども、今の私は問題無く対象出来る。
辺りが暗闇に包まれ、鳥の囀ずりも遠くに消えて行き、変わりに虫の声が森に響く。
夜は月明かりがあれば、虫の声や発光する虫達の明かりで幻想的な雰囲気に変化して、一人でも怖くは無い。
月明かりが消えると、感覚が研ぎ澄まされ、良い修行になる。
スライムは活発になるわけだし、魔獣も夜の方が出やすいかも。
そう考えて、さらに森の奥に入って行った。
そろそろ疲れも感じ始めた頃に、水の流れる音が聞こえてきた。果物から水分は取れるけど、水は飲みたい。
水の音を探り進む。
木々の間に、十メートル程の幅がある川を見つけた。
勇者になって身体の能力の向上は日々感じていたけど、眠気は消えないらしく、眠る事で体力が回復するのは変わらないみたいだった。
むしろ、勇者になった事で睡眠による体力の回復量が凄く向上した事に驚かされる。
枯れ木を集め、こっそり塔から持ってきた『手に収まりの良い、火を付ける道具——』簡単に言うと『ライター』で火を起こし、川で魚を何匹か捕まえて、こんがり焼いて美味しく完食した。
虫の声が消えた事にも気づかずに、そのまま横たわると、眠りにつく。
元の世界でもこんな生活をしていた時期があるから、魚を一瞬で捕まえらる程向上した身体能力をもってすれば、何も苦にはならない。
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