第15話 疫嬢の戦いの果てにⅢ

 翌日ラテの案内で、さらに地下に潜った所に設けられた城へと向かう。


「アギル様は先に城に入っているはずです」


「もうあいつに、なんてつけなくて良いよ」


 その言葉に困るラテを見て、悪魔の大変さを感じていた。


『どうせなら、アギルが城で虐待でもされていれば良いのに——』と、思ったその時。城の門が吹き飛び、中からアギルが転がり出てきた。

 本当に、ボロボロで飛び出てくるとは思わなかったけど、その姿を見て少し笑っている自分がいた。


 すぐにそれは後悔に変わる。


 全速力で駆け寄るラテ。


「アギル様大丈夫ですか?」


 大人の偉大さを見せられ、対照的に自分の幼稚さを反省する事になる。


 俺も仕方なく、アギルの所に向かう。急ぎはしない。


 しかし、アギルの表情を見て、すぐに通りすぎた。ラテの胸に抱かれて、幸せそうに眠るアギルを通りすぎて、壊れた扉を蹴飛ばす。

 気持ちの昂りから、予想以上に力んでしまい、扉は盛大に吹き飛んだ。

 城の中には深緑で、透明感のある戦士達が、数えられない程に待ち構えていた。


「新手か!」「アギルを連れて帰れ!」


 扉の破片が直撃した者を周囲の者が気遣い、怒号が飛び交う。

 中央に存在感を放つ巨大な階段の左右にはそれぞれ、三メートル程の大柄な、深緑の戦士が二人。身体は透けておらず、筋肉が脈打ち、その上に直に鎧をまとい、真っ青な光彩を輝かせていた。


「これは、どういう状況か教えてくれないか」


「煩い、そんなクズをここに置く事は出来ない。貴様、そいつの仲間なら今すぐ連れて帰れ!」


「わかった、わかった。アギルがクズな事には激しく同意するし連れて帰るから、その前にエシュマに会わせてくれないか」


「エシュマ? だと?」


 呼び捨ては軽率過ぎたのか。大柄の戦士の魔力が迸り緊張感が高まる。


「そのクズの仲間を、我らが偉大な王に会わせる事は出来ない!」


 ですよね。

 分かる、分かるよ。


 俺が同じ立場だったら、アギルの仲間なんて絶対信用しないからな。

 アギルの非礼に対して、出来る限りの謝罪を、と考えてフードを脱ぎ、ゴーグルを外し膝をつき頭を下げた。

 以前の俺だったら、こんな素直に謝れなかったと思うけど、ラテの大人な対応を何度も見て、色々と思う所があった。


 ゴーグルを取った辺りから戦士達に緊張感が伝わり広がる事を肌で感じた。


「アギルの非礼については謝る。お前達の王を呼び捨てにした事についても謝ろう。俺はこの世界を救いにきたんだ。だから、疫穣の王に会わせてくれないか?」


「唯一の王よ。頭を上げて下さい」


 甲高い笑い声と共に、階段の上部に設けられた巨大な扉が開き、天井に届く程に巨大な身体を持つ者が現れる。


 深緑の戦士は、皆一様に膝を付き頭を下げている。


 一目で理解出来た。

 あれが疫穣の王エシュマ。


「お待ちしておりましたよ、唯一の王よ。本当に、本当に長い間待っておりました」


 若葉のような綺麗な緑の体躯は、下級の戦士達と同様に半透明で、常に流動しており、身体の中心に巨大な魔晶石が淡い光を放っている。

 身体を重たそうに動かし、俺の元へと来て膝をつき、それと同時に流動的な巨体は、床に沈んだ。


「ワタクシの事は“エシュマ”と、呼んで頂いて結構です。その悪魔は、ただ暴飲暴食をして、ウチの若い衆を怒らせただけです。大した事ではありませんよ。しかし、あなた様の力はこの目で見るまでは信じられない気持ちがあるのも事実。少し手合わせ願えないでしょうか?」


「手合わせ?」


 エシュマが立ち上がる動作に合わせる様に、小さい戦士達が俺の回りに集まり、三十センチ程の身体を押し合わせ、一つに纏まり、まるで水流の様に俺を外へと運び出す。

 流れに身を任せていると、城の真上にある巨大なコロシアムへと辿り着いた。

 門の外で転がっていたアギルと、それを抱き抱えていたラテも、俺とは別にそのままの姿勢で観客席と思しき所へと運ばれている。

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