第2話 誕生日2

頭が真っ白になった、その言葉がこうゆうときに怒ることを初めて知った、いや、知ってしまったと言うべきか。


俺は、何が起こってるのか意味が分からなかった。

なんで、俺の両親が血だらけで倒れているのか理解が出来なかった。

腹部を滅多刺しにされており、家の中はものすごく荒れていて、壁には血痕が垂れていた。

おそらく、小一時間辺りに起こったのであるのは容易に想像できた。



俺が呆然として突っ立っていると、玄関からコツコツと音がしてチャイムがなった。

俺は全く、玄関を開ける気には、いや、動けなかった。

玄関のドアのガラスから人影が見えるのに、一向に出てこないのを変に思ったのか、チャイムを押した人物が玄関に入ってきた。


「う、うわぁぁぁぁ!!」


俺の両親の死骸を見て、郵便局の配達員の格好をした男が絶叫をあげた。

絶叫マシンの絶叫ではなく、おぞましい何かを見た時の絶叫だ。

しかし、俺には、外の連中の声は全く聞こえなかった。

バイトで貯めたお金で買った冷蔵庫の他に花束をばあさんにあげようと買っていたが、赤い薔薇は血と同じ色に染め上がっていた。


まもなく、パトカーの音が近ずいて来ていたが、俺はそれすら全く気にもせず、魂の抜けた亡骸を呆然として眺めていた。


俺は第1発見者として、警察に連行されたが、俺が犯人じゃないのは一目瞭然だったのか、すぐに開放された。

時間はすっかり夜になっていたらしい。

妹は、児童相談所に保護されてるらしい。

俺は、家へと向かって歩き出した。

間もなくして、犯人は近くの交番で自首したらしい。

走って俺の元へ警察官が1人、伝えに来てくれた。

俺は、手でもういいよと言って、そのまま歩いて家へと向かった。


悲しいと憤怒の感情すらない、無の感情。

じいさんばあさん、父さんと母さんはギャンブルで多額の借金をおったクズ野郎が俺の家に空き巣に入り、丁度家の中に入った父さんと母さんはクズ野郎と鉢合わせた。

ナイフを突き出して、脅してきたクズ野郎に抵抗した父さんと母さんはそのままナイフで殺された。


「大丈夫よ!」か.........

何が大丈夫何だよ。

俺のことより、てめぇの心配しろよ。

なんで.........なんでこうなったんだ?

俺は自分の心に聞いた。

答えはすぐに出て、とてもシンプルだった。


俺か.........


俺が余計なプレゼントの買い物なんか、自己満足でしかない愚行をしたからだ。

俺が.........俺が.........少しでも早く帰っていたら、助けられたかもしれない。


クズ野郎は、俺じゃねぇか。


責任転嫁もいい加減にしろ、俺が.........クソが!!


なぁ、神様よ。

見てんだろ?俺を。

頼む。

俺は祈る、死ぬまで祈る。

何だって貢ぐし、なにかの神父にだってなってやる。

頼む.........

頼むから.........


俺の大切なものを返してくれ。

どうでもいい買い物してた時間、俺がいないところで殺された時間は 、全てを壊された日常、返してくれ。


「俺の.........家族を.........返してくれ!!!」



ポツリと夜道の中叫んだ。

静寂の春の肌寒い新月の闇夜の中、俺の声に答える者は誰もいなかった。


俺はその時、理解した。


『神様なんているわけない』とな。


そんな当たり前のことに気づくのに、俺は父さんと母さんの命を使っちまった。

てめぇの日常、大切なものくらいてめぇで守れ。

これすら気づけなかった。

いやしない、助けてもくれない神なんかに祈って守ってもらおうとしていた。


気が付けば家の前に突っ立っていた。

警察の貼った訳の分からない立ち入り禁止と書かれたテープを乗り越え、家の中に入った。


リビングに入ると、テーブルの上に二通の手紙があった。

1つは俺宛、もう1つは妹宛だ。

手紙には『入学おめでとう!』綴られた文から始まった。

そこには、俺のことや俺の自慢、今後の人生のアドバイスなんか書かれていた。

後半には、父さんと母さんの俺の知らなかった事が書かれていた。

最後には、俺達の結婚式には自分達は寿命で出れないと書かれていた、そして俺には、妹を1人で結婚式を上げさせるなと、金屏風の前には1人で立たせるな、と書かれていた。

そして、手紙の紙が入っていた封筒の裏に、こう書かれていた。


『大切なものは自分で守れ!頑張れ、お前にはそれが出来る。なんたってわしらの息子だからな!』


そう書かれていた。


バカヤロウ.........

そんなこと、守れねぇよ。

父さんと母さんは、俺のせいで死んだ。

もう、俺は、約束を果たせていない。

俺はクソ野郎だ!!!


堪らず両手を振り上げてテーブルを強打した。


その瞬間、父さんと母さんが、俺に何か言ったような気がした。

周りをキョロキョロと見回すが、誰もいない。

しかし、聞こえるんだ。父さんと母さんの声が。


「勝手に死んで、悪かった」


ふざけんな.........なんで謝んだよ。


「ありがとう、こんなにも思ってくれて」


だからっ!ふざけんな!

あんたらを殺したのは俺だ!

あんた達は手紙に書いてた!

大切なものは自分で守れと!

俺は.........守.........守れなかった。


「それはちがうぞ。わしらはお前達と過ごしてるだけで、守られていたよ」


嘘だ.........

嘘.........つくんじゃねぇよ!

俺は、自分の頬を流れる何かに全く気づいてなかった。


「椛、いい名前だなぁ。椛と呼べるのはこれで最後かもしれねぇがこれだけは言う」


嗚咽を必死に耐えながら耳を傾ける。


「大切なものは守れ!まだお前には俺達より大事なものが残ってるはずだぞ?」

「いいか?わしらは死なないぞ?椛達の心と一緒になるだけだ」

「椛、泣くな、男でしょ?」

「「椛、笑え。笑え。辛い時ほど笑え。辛い時に笑えば必ず幸せはくる」」


後ろで、満面の笑みで両親が笑ったような気がした。

そうだ.........

俺にはまだ、残ってる。

大切なものが.........



現実から逃げていた自分を殺せ。


もう、もう二度と大切なものは失わない。

誰が、誰が神なんかに祈るものか。

クソ野郎は俺だ。

てめぇが守らなきゃ行けないもん守れなかったクソだ。

そして.........

笑え!


俺は、俺はこの時生まれ変わった。


そこから月日が流れるのは早い事だ。

妹がいじめを受けた時は法律等を完璧に覚えて、いじめっ子グループの家族を含めて木っ端微塵に叩きのめしたりしたな。


妹は.........『大切なものは守れ』。

約束.........果たせなかったなぁ。

人混みの中から俺を突き落とした犯人の顔が見えた。

いじめっ子グループの父親だ。

この父親はとある会社の社長で、俺の逆鱗に触れたコイツらを俺は会社ごと叩き潰した。


完全に失念してた。

いじめっ子を産む家庭のことだ。

俺を恨むことは当然の事だったな。

くだらねぇ。


妹が1番の心残りだ。

だが、あの子は強い。

1人でもやってける。

あの子を邪魔するのなら、俺が死んだ後祟り殺してやる。

だから、大丈夫だよ。朱里。

お兄ちゃんが、絶対守ってやるから。

お兄ちゃんの銀行口座には5000万くらい入ってるから、大学なんかにも使って、立派な男の人と結婚して、幸せに暮らしてくれ。


電車が俺に突っ込んでくる。


今日は9月9日。

俺の誕生日だ。

そして、命日となる。


電車と接触した瞬間、ようやく、俺の意識は闇の中へと引きずり込まれた。









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