第2話 始まりの雨
しとしとと降り注ぐ雨の音に、ふと、
暗闇の中、ぼんやりとしながら開け放たれている小窓に目を向ける。だが、そこはまだ暗闇が広がり何の色も見えない。
耳を澄ますが、雨の音が聞こえるだけ。
だが、花琳は胸騒ぎを覚えた。
「……嫌な予感がする」
ぽつりと呟き素早く起き上がると、腰まである長い髪を紅い
手触りの良い厚手の上衣を羽織ると、足音を立てないように注意しながら
最上階の六階に臥室を与えられている花琳は、注意深く辺りを見渡した。何か変わったことはないかと、木で出来た柵に手をかけ中庭を見下ろす。
だが、そこには普段と変わらぬ夜の光景が広がっているだけで、雨が静かに地面を濡らしていた。
中央に鎮座している
ここには、八十世帯が一緒に住んでいる。
廟と少し離れた井戸には松明が灯され、離れた場所にいる家畜達も寝静まっているのか不審な点はひとつもない。
土楼へと出入りできる
だが、花琳の胸騒ぎは収まらない。
花琳は胸元で両手を合わせると、祈る様に目を閉じた。
「……花琳」
ふいにかけられた低い声に、花琳はびくりと身体を揺らすが、聞き覚えのある声に目をあけ声の主を探した。
「……
暗闇から現れたのは、小さな灯りを手に持った花琳より年上の青年。その青年の顔を見つけると、強張っていた花琳の身体から力が抜けた。
「物音が聞こえてな。眠れないのか? それとも……心配事か?」
「……ええ。嫌な予感がするの。南から厄災が訪れるわ。もしかしたら……私を探しているのかも知れない」
花琳は周りを気遣い最小限の物音しか出さなかった。なのに、耳が良い浩然には聞こえていたらしい。
小さく震え出した手をぎゅっと握り、花琳は唇を噛みしめた。
この三年、何事もなく平凡に暮らしていた。なのに、運命はまた、花琳をあの場所へと連れ戻そうとしている。
都がある南方へと視線を向けると、心の中で何度も「来ないで」と呟いてみるが、その嫌な予感は払拭されない。
「……朝になれば何かわかるだろう。念のため他の土楼にも伝えておこう。明日は大門を開けないように指示を出しておく。花琳、心配なのはわかるが、この闇で動くのは危険だ。今は休め。ここは安全だよ」
浩然は震えている花琳を落ち着かせるように頭を優しく撫でた。
「……ええ。この勘が外れてくれると良いけど……無理でしょうね。願わくば、厄災がすんなりと、いなくなりますように」
そう祈ると花琳は、浩然に促されるように臥室へと戻って行く。
そんな花琳の想いとは裏腹に、雨が段々と激しさを増した。
厄災が降り注ぐ前兆を知らせるように――。
「助けてくれ! 病人なんだ」
雨も上がり夜が空けた頃、それはやって来た。
土楼の人々が眠りから覚め動き出した頃、その声は、閉じられている大門の外から突然響いた。
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