〉〉[急募:ハッカー]〈〈
「
だから私は悪くない。
つまり瞳孔括約筋も自分で動かせないお前が悪い、とお嬢様。
「……」
言い返したいが言い返せないので狛彦は取り敢えず中指を立ててみた。「……」。蹴られた。まぁ、いつものことだ。
「それで、どうしますか?」
「追う。受けた仕事が『助けて』だからな」
「……聞きたかったんですけど、どうやって『助ける』つもりなんですか?」
「あー……」
それかぁ、と狛彦がめんどくさそうにがりがりと頭を掻く。
完璧に勝つ。武力で以って敵勢力を完全に叩き潰し、磨り潰し、黙らせる。それは……まぁ、無理だ。相手は
狛彦程度の
だから――
「ウサギ、わりぃがテメェらには他の街……そうだな、バレットレインと仲が悪い企業が持ってる都市に逃げて貰うけど構わねぇかな?」
『それでウサギさん達は自由になれるのか?』
「いや、成れねぇ」
正確にはなる方法もあるし、成ろうと思えばなれる。
だが自由には責任が伴うのが世の常だ。自己責任で身を守らなければならない。
そして不自由は確かに身を縛る鎖だが、それでもその鎖は上手く使えば刃を止めるのにも使える。
「自身をサンプルとして研究員待遇で逃げて貰う。上手く立ち回らねぇと結局は同じ展開になるかも知んねぇが、それでも一応はテメェ次第っー選択肢は用意できるし――」
「……成程。相手が一番嫌がるのもソレでしょうから意趣返しにもなりますね」
鈴音の呟きに「
危険な兵器を回収する。それも確かにある。その兵器が市民を傷つけたら責任問題だ。弁護士先生が張り切って賠償金とか払う羽目になる。
だがそれだけだ。痛くはあるが、致命的ではない。企業主体の社会である以上、強い企業はそこまで噛み付かれない。何故ならその弁護士もその企業社会で生きているからだ。
企業社会の真の脅威は法ではない。だって法は企業が変えられる。
真の脅威は他の企業。特に同業他社だ。
そんな所に開発中のサンプルが流れる。それは会社の命に届く傷になる。だから――
「上手くやりゃ逃げた先の都市ぐるみで守ってくれるぜ?」
特にアリスは女で子供だ。バレットレインの非道を責める広告としてこれ以上ない程に強い。
『……ウサギさんにはそれ以上の案は出せそうにないが……そんな企業は、都市はあるのか? ウサギさん達をサンプルとして扱わない、そんな企業が?』
「ねぇな」
残念ですが、と狛彦。
金が無いのなら死んだ方が良い。
その絶対のルールが示す様に企業社会の正義は利益だ。
道徳も何もない。悪徳であっても利益が出るのなら、女子供でも磨り潰される。
だが、それでも――
「そう言う企業に心当たりはねぇが、そう言う研究者には心当たりがある」
性善説。性悪説。染まらなかったか、学んだか、そのどちらの結果にしろ人間である以上、クソやクズもいればそうで無いモノもいる。
『……それでお願いをする』
ウサギが頭を下げる。その長い耳を見ながら狛彦がつまらなさそうに溜息を吐き出す。
「警告だ、ウサギ。人を信じるな。こういう話をしといてテメェらを企業に売り飛ばす様な連中は幾らでもいる」
『そうかもしれない。それでもウサギさんは狛彦を信じると決めたから』
「それでもだ。だってテメェは――」
――兄ちゃんなんだろ?
鈴音からも見えない様にウサギの耳に顔を近づけての呟き。
それを残して擦れ違う。
「っー訳だ。ラファ。わりぃが
「逃がし専門のか? 費用は? ランクはどうする?」
「費用は俺が出す。ランクは出来るだけ良い奴を。あ、逃がす先のこと考えるとトウスイ、ヤマガにパイプ持ってる奴で――」
この後のことをまとめた。
今日の夜にはウサギとアリスはこの街には居ない。それ位のペースで進めた。それ位で無いと勝ちの目が無い。相手の方が上なのだ。どっしり構えられたら終わる。だから始めたのなら速攻で展開を動かさなければならない。
それでもどうしても確認しないといけないこともある。
「学校辞める……っーか、街出ることになるから――」
「降りませんよ。学校よりも貴方に付いて行く方が私の目的は果たせますから」
「そうかい。そんなら後ろ乗れ」
ラファの用意した盗難バイクに跨った狛彦の指示通りに鈴音が後ろに乗り込み、狛彦に掴まったあと、ウサギがそんな狛彦の頭上に乗った。
「重……くはねぇな」
どうなってんだ?
『ウサギさんはヘルマン
「あぁ、そうなのか。ヘルマン鋼か。うん。そうかー……」
良く分からないけど、多分得意気だからお高いんだろう。何となく狛彦はそう判断する。
そしてやはり、と思う。ウサギは失敗作ではない。ウサギは言った。『精神が幼いのでウサギたちは失敗作だ』と。それは嘘だ。心の幼さは兵器にとってはプラスに働く。幼子の娯楽の一つは虫の翅を捥ぐことだ。狛彦も翅を捥いだゴキブリでレースをしたことがある。
人間は動物で、動物は残虐だ。別に食う為でない殺しくらい容易く行うのだ。
「……待ってても良いんだぜ?」
『多分、戦力には成らない。それでもウサギさんはアリスを助けに行きたい。狛彦の言った通り、ウサギさんはアリスの“お兄ちゃん”だから』
「そんなら遠慮なく使わせて貰うぜ」
言って、アクセルを全開に。エンジンが唸りを上げて心地良い振動が狛彦の身体を奔る。「……」。鈴音が少し強く身体に抱き着くのを確認して、狛彦は一気にバイクをスタートさせた。
〉〉[急募:ハッカー]〈〈
〉〉[何やんの?]〈〈
〉〉[バレットレインにかち込むの]〈〈
〉〉[アホなの?]〈〈
〉〉[バカなの?]〈〈
〉〉[バレットレイン保安部の釣りですか?]〈〈
〉〉[釣れますかな?]〈〈
〉〉[釣り針デカすぎない?]〈〈
〉〉[デカすぎるし、保安部にも筒抜けだから逆にガチだと思われる。やれんの?]〈〈
〉〉[やれるかは知らんが、マジでやる]〈〈
〉〉[本気でやるならこんなとこにスレ建てないでもろて]〈〈
〉〉[もう揉めてるから今更らしい。時間ないからやる気ある奴以外はROMで頼む]〈〈
〉〉[あ、アンタ本人じゃなくて
〉〉[どうやんの?]〈〈
〉〉[実働部隊が物理的に社内ネットにアクセスポイント造る]〈〈
〉〉[まぁそうなるな]〈〈
〉〉[実働は誰派遣すんの?アーガトラムとかなら俺も噛む]〈〈
〉〉[
〉〉[
〉〉[どこ?]〈〈
〉〉[ダイバーダイナー]〈〈
〉〉[……語りじゃなさそうだな]〈〈
〉〉[そう。マジ。そんでマジで時間ないから冷やかしはやめろ。邪魔するならマジで対応する]〈〈
〉〉[オーケー。ROMるわ]〈〈
〉〉[同じく]〈〈
〉〉[現物欲しいんだけど、ドールでの参加あり?]〈〈
〉〉[あり。自爆前提もある程度欲しいから寧ろマジ歓迎]〈〈
〉〉[参加で]〈〈
〉〉[マジ感謝。作戦詳細『ここ』な]〈〈
〉〉[当方
〉〉[もちいいけどこっちもワームは奔らせるから自己責任になるよ]〈〈
〉〉[誰のワーム?]〈〈
〉〉[サムライハード]〈〈
〉〉[あー……
〉〉[もしかして極夜重工噛んでる?]〈〈
〉〉[噛んでる。時間無いから資金のみだけど]〈〈
〉〉[報酬は?]〈〈
〉〉[十万クレジットに加えて
〉〉[襲撃ヵ所の指定とかあんの?俺、資材部のデータに用事ある]〈〈
〉〉[試作部に今何がありそう?義肢関係ならルートあるから入りたい]〈〈
〉〉[襲撃ヵ所の指定はない。試作部に何があるかはマジで知らない]〈〈
〉〉[やるわ]〈〈
〉〉[そんならこっちも。どういう段取り?]〈〈
〉〉[実働部隊が突っ込むから適当に荒らして]〈〈
〉〉[……それは段取りとは言わない]〈〈
〉〉[訂正]〈〈
〉〉[ですよねー]〈〈
〉〉[もう突っ込んだから適当に荒らして]〈〈
〉〉[ですかー……え?]〈〈
〉〉[マジで?]〈〈
〉〉[早ない?]〈〈
〉〉[マ ジ だ ! 今、高速道路にいんだけど、バイクが突っ込んでった!]〈〈
〉〉[社内ネットにアクセスポイント造ったから『ここ』踏んで好きなの持ってって。あ、分かってると思うけど、マジ自己責任な?]〈〈
〉〉[祭りだ!]〈〈
〉〉[笹食ってる場合じゃねぇ!]〈〈
〉〉[パンダかな?]〈〈
〉〉[俺も行く!実験データの小数点とコンマをぐちゃぐちゃにするんだ!]〈〈
〉〉[ひでぇ]〈〈
あとがき
連休中『風来のポチ吉』になってたのでストックが無いから三日に一回更新で行くよ(行けるとは言ってない)。
罠の神カカルーのほくそ笑みを!!
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