第一話 「黎明を告げる〈東京〉」
序章 第一話「《天武》第二位・碧雷」
俺は国連直属の特務調査機関に所属するバリバリ現役高校生!
……真実なのであるが、今日も上から渡される任務をこなしていきます。
十年、十六年前の大災害から必然的に設立されたこの組織に入って、もうちょうど十年である。いろいろあったが、そろそろ「ベテラン」の部類に入ることが出来ただろうか。
〈ハーモニア東京支部・野外訓練場〉
「エクソジオ」
〈起動コマンドを検知しました〉
俺は背中に吊るされた鞘から水色の刀身を輝かせる愛剣を引き抜き、目の前の山に向かって剣尖を向ける。
突如、ぴりっ、と稲妻が走る。あまり遅れをとらずに、続いて水色の光が渦上に湧き上がり、トルネードのように刀身にまとまる。
〈アクチュエート〉
閃光。
刹那。
音も無く剣尖から放たれた稲妻と海渦のビームは、静かに山に着弾する。
「ふっ」
俺は、口角を少し上げながら、目の前の巨大な山に背を向ける。
そして、
――パチン。
指を鳴らした。
突如。轟音と共に山肌が爆発を引き起こし、ドロドロに溶けた木々が流れてくる。
立ち上る爆煙。香る焦げ臭い匂い。
まぁ、合格点と言ったところだろうか。
「何が合格点よ⁉」
俺の心を見透かして言う何者かは、突如目の前にぱん、と現れた。突然目の前に大きなシャボン玉が現れて、それが割れると共に中から人が出てきたのだ。
「なっ、いつの間にいらっしゃったんですか⁉」
俺は剣を超高速で鞘に納刀していた。
何もかも一刀両断しそうな冷徹な視線が、俺の心をレーザーカットしていく。ここ東京支部の最高権力者、支部長が俺の目の前に立っていた。通称「女王」。
「あなた……『加減』って言葉、知らないのかしら……?」
長い髪の色と遜色ない小さくも鋭い槍の尖端を俺の喉元向けて構える。勿論俺を殺す気は無いだろうが、冷静なのかそれとも激昂しているのかよく分からない。要するにかなり怖い。
続いてこめかみをピクピク動かしている様を見て、自分やっちまったなと気づいた。
「なぁあぁあの、悪気は無くてです!無くて、ちょーっと的から外れちゃったぁー的な?とりあえず、わざとじゃないんです!すいませんぃいたたたたたた!!!」
耳を引き千切れんばかりに引っ張られ、俺はあっけなく白旗を上げる。
いるとは思わなかったんだよ上司が。今、まだ十時だし。
そのまま半強制的に支部長室に連れていかれ、簀巻きにされた俺に上司はプリントを手渡す。
「南極支部、ですか」
配布された資料を眺めながら、俺は目の前に立つ青髪の長身女性に質問する。
「そうよ。緊急の派遣要請だって」
腰まで垂れ下がる、深い青と淡い青が混じったそれを交互に三つ編みした髪を冷風機の風で靡かせながら、天井に突き刺さりそうなくらい長い槍を背負った女は言う。
やけに豪華な装飾が施された棚に、隙間なく飾られたデカい賞状や金を纏うトロフィーが、室内の照明を反射して輝く。部屋の片隅にはそれまた豪華な武器立てが整列し、大小さまざまな槍が丁寧に収納されている。ちなみにそれぞれ名前があり、左手前から耳、鼻、目、舌――などらしい。
ダサいどうこうの問題ではないぐらい壊滅的なネーミングセンスを、否定してはいけない。これは東京支部に所属する組織員たちみんなの暗黙のルールだ。
部屋の正面に佇む一つの机だけで、目の前に立つ女の位の高さが伺える。純金のプレートには〈支部長〉の三文字が刻々と刻まれていた。
水縹灯織(みなはだ あかり)は後ろの棚に積まれたポテチの山から一袋引っ張ると、勢いよく封を開けてそのまま飲み干した。ちなみに飲み物ではない。ポテチだ。
デブるぞ、まじそれデブるぞと思うのが妥当である。しかし体形は思いのほか華奢であり、肥満ではない。よく世間で聞く、「どれだけ食べても太らない人」のそれだ。
コンソメ味のそれを
「南極支部からのあなたの派遣要請書、これね。それより……南極支部もなんでこう、人選しっかりしないのかしら」
「…なんすか、俺を否定するんすか」
少しピキッと来たが堪える。
「あなた、戦闘技術は確かに凄いわ。群を抜いているもの。だけど、その人間性よ。あなたってかなり短気じゃない。ほら、この前の中央区での出来事。通りかかった銀行が強盗に襲われていました。あなたはドカドカその被害現場に入っていって、強盗を挑発させて自分を撃たせ、強盗八人を全員両腕骨折で病院送り。しかも被弾位置をミリ単位で計算して頬を掠っただけ」
「正当防衛――」
「と言う名の過剰防衛ね。むしろ攻勢。まぁ、確かに銀行強盗を止めたのは『功績』だけど。でも、精神状態のその不安定さは否めない、そうでしょ?いずれ、支障が出ると思うわ」
「アンガーマネジメントの講義にでも行けと?いや行きませんよ。ポスター見ましたけど、その日全て用事入ってますんで」
「健全動画のレンタル「違います」
無理やり資料に目を落とすと、確かに俺の名前が刻まれている。なお、見たことない紙なのに俺の印鑑が勝手に押されていることに関しては目を瞑っておくことにした。
しかし、自分で言うのは何だが、俺の持つ位〈天武〉は、世界で八人しか存在しない、戦闘員の中の最上級階級である。しかしその高い位故に持つ制約があり、絶対条約にて各国間を普通行き来することは禁じられている。例外も勿論あるのだが、俺を起用する程大変なことが南極で起きているとは思えない。
――しまった、今の発言はナルシスト判定になってしまう。
頭をガンガンと叩いて、その愚鈍な考えを破棄する。
「どうしたの?」
「いえ、少しめまいがしただけです」
「叩いたら治る法は、人間には適用されないわよ」
「〈ソース〉を二つも装備している時点で、俺をもう人間と見なくても妥当だと思いますよ?」
「私も、元〈複属性持ち〉だけど」
一連のしょうもない会話を終えてから、再度本題に突入する。
「緊急、ということで、あなたの今日、明日、明後日のスケジュールを全部カラにしたわ。ままぁ本当のとこ、緊急なのかすら分からないけどね。本部長のサインも無い、〈非公式〉だもの」
十分やばいことをさらりと言ってのける目の前の上司は、あっという間にポテチ一袋(それもBIGサイズ)を食べ終えゴミ箱に袋をぶん投げる。
「非公式?絶対条約に違反するんじゃないですか?」
幹部連の会合で決まったものでなくては、最上級階級に属する組織員は原則管轄区域離脱禁止だ。これは〈絶対条約〉第十二項にあたり、違反すれば厳罰である。各国の〈アルミス〉対抗戦力のバランスが崩れれば集中的に狙われ陥落もあり得ると言うのが表向きの条約締結のキッカケだが、勿論この条約は各国のエゴも絡まり、矛盾なんて探せば探すほど出てくるものである。
「まぁ、少し様子見、兼ねてるからいいわよ」
アカリは長くて深い青をした髪をくるくるといじっている。
「派遣に関する詳細な任務情報も無い⁉大丈夫なんですか!」
だから様子見って言ったでしょ、と吐き捨てたアカリは、遠方派遣許可証をポテチ山の上の棚から引き抜き、さりげなくポケットから出した俺の印鑑(なぜアカリが持っているのか不明)を強制的に押す。
「ってか、この組織って色々ガバガバじゃないですか?〈天武〉になってから感じましたけど」
古すぎてしわも入ってしまっている遠方派遣許可証のサイン欄に名前を書き込みながら、またポテチの袋を開け始めたアカリに聞く。
「昔はしっかりしていたわよ? でも、最近〈アルミス〉殲滅までの進展が無いじゃない。だから世間に発表する話題もこの組織の独自技術の紹介だけじゃ対処できなくなって、いろいろピリピリしてるのよ……。例えば、フィリピンに置かれた支部あるじゃない。あそこ基地ごと吹き飛ばされたわ。国軍に」
「え⁉あの新築の綺麗なとこですか?吹っ飛んだんですか?」
「つい一週間前くらいにね。大きな成果を上げてないうちの組織〈ハーモニア〉に嫌気が差しているのかもしれない」
〈ハーモニア〉。
2030年の悲劇から国連により立ち上げられた、特務研究調査機関〈ハーモニア〉は、2046年の今、特に目立った〈アルミス〉殲滅成果が上がってないことを理由に組織規模を縮小されかけていた。勿論日々地下から湧き続ける〈アルミス〉を駆除し続けているが、設立から十六年という長い年月が経過していながらも、〈アルミス〉による地球侵略の根本的な解決に辿り着いていないことが世間から反感を買っているらしい。
世界人口が三分の一に減少してから人口は十六年たった今回復傾向であるが、いまだ〈アルミス〉は数を減らさず、民間の死傷者も出し続けている。
「って言っても、根本的な解決って言ったって〈アルミス〉たちが本拠地としている地下なんて、最深部は地球の核に到達するレベルの深さですよ。行けるわけないじゃないですか。おまけに〈Tv〉のせいで十分以上の交戦は禁止されてるし」
地球の核近くに本拠地を置くと言われる〈アルミス〉たちは、熱や磁場、放射線で戦闘員が近づけないことをいいことに日々進化し続けている。初期は人型フォルムのみであったが、今となっては鳥をモチーフにしたものや、俺の嫌いな多足類をモチーフにした動物系の物も多く見られるようになってきた。
依然、空はいまだ赤いまま。
「まぁ、うちの組織の技術部も耐熱耐圧スーツを研究してくれているし、〈Tv〉の濃度を薄める実験も今佳境よ。いずれ殴り込みに行けるようになるわ~」
ポテチを貪り食べるアカリの姿を見ては、壊滅の現実性は一気に奈落へと急降下である。確かに人間が〈アルミス〉たちに不利な状況で戦っているのは事実で、それを無視して早く殲滅しろと言うのは間違いであると思うが、トップがこれじゃ世間から叩かれても仕方が無い。
「あ、書けましたこれ」
青色のマーカーと、自分の組織員証のコピーを貼ってアカリに渡す。ここだけの話だが、特別手当の数字に一桁ゼロを足しておいた。黙っておけば犯罪ではない理論を適用させてもらう。
「よし、詳しい話は聞いてないけど、テツオさんとかによろしくね」
アカリは机の端に置いてある紙袋と、その隣に置いてある水色のお守りを持ってけと急かす。
紙袋の中身が持ちの悪いおはぎであるのは俺に対するアカリの試練だなと思った。
「ふっ。もし命が危うくなったときは、そのお札を握って願うのよ」
いつも持って行けと急かす水色のお守りは、焼いて印字された文字が若干擦れてきている。
それを胸ポケットの中にしまい、深く敬礼してから部屋の扉のノブに触れる。
「危うくなるって、俺は〈天武〉第二位ですよ?何ですか?このお守りの中には死をも克服できるようなやばいものが入ってんすか?」
「さあね?」
結局俺の質問には答えず早く行けと急かすアカリ。普段、氷のように振る舞うその冷酷な瞳は、一瞬だけ柔らかで暖かい物へと変わった気がした。
彼女は部屋の扉を閉めて外へ出ようとする俺に手を振った。
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
いつの間にか恒例となってしまった、いってきます、いってらっしゃいの挨拶。
まるで家から学校へ出かけていく高校生を見送るお母さん、みたいな構図だが、案外嫌いでは無い。
和菓子が入ったその袋を片手に、俺は東京支部で最も権限を持つ、女王の部屋から退室する。
いつもみたく、俺の一日の任務がスタートした。
なんの変哲も無い、十六歳の一日、そして日常。
――大したことは何も起きないと思っていた。
普段通り、任務を終えて、自室に帰って、そしてカルボナーラを啜る。それを無限繰り返す俺の日常は、不変であると思っていた。
激動の四日間は、現時刻を以て始まった。
第二話 「凍て刺す南極の地で(夏なのにこたつが恋しいですね)」
「こちらが、世界中に八つ支部を置く、国連直属特務調査機関〈ハーモニア〉の東京支部、エントランスです。築十四年、〈ゲート〉の防衛に当たっています」
「すごーい! きれい!」
東京支部のエントランスに設置された、ランドマーク的存在の巨大噴水の周りには、学生の職を全うとする人だかりが溢れていた。普段中継地点やホームタウンならぬホーム支部として利用される東京支部は毎日混んでいるのだが、更に集まった熱気は多量の人の数を計算させる。
そう、〈ハーモニア〉は大きな戦果を挙げることが出来ず、〈アルミス〉殲滅までの道のりが泥沼化してしまったため、今は観光事業に力を入れたり学校組織の見学を誘致したり、本来の設立目的を盛大に無視した組織経営方針を展開したりしている。〈アルミス〉の地球侵略で多くのカルチャーやイベントを失ってしまった今、こうした復興関連事業への取り組みは決して悪いことではない。
「そして……あ!あちらにいらっしゃるのが、〈ハーモニア〉の戦闘部門を支える八柱の一人、碧雷戦闘員です!」
決して悪いことではないのだ。しかし、今自分が危惧していたとある状況が実現してしまった。
「あー!おにいさんがあのライさん?」
「へぇ、ネットに上がってる動画より数倍かっこいいじゃん」
「あの髪の色凄くない?絶対染めても無理だよあれ!」
目の前に群れる人だかりの一つとして目を逸らさず、俺に視線は一点集中である。小学生、中学生、高校生、大学生まで。一体一日にどれだけ見学を受け入れているのか、渋谷のスクランブル交差点にいる人たちを丸々ここにテレポートしたように、その大勢の群れは俺の顔をじっと眺めるのだ。
「――碧雷です。見学の方、お楽しみください」
……本当は〈推進力増強シューズ〉で大陸間超音速航路パイプ乗り場まで逃げようかと思っていたが、諦めて真摯に対応した。人前に出て何か喋るとか、妹と違ってあまり好きでない。愛想を浮かべて、自分の足元に立つ小さな子供に小さくハイタッチをしてから、俺はゆっくりと立ち去った。
「……かっけぇ……なんかこう、そうかっけぇ……」
「あれが『天武第二位』のライ、かぁ。まだ十六歳なのにまるで大人だよな」
噴水の水の音、空調設備のフル稼働音、それらに混じって微かに鼓膜を叩くのは多くの人の声。
――かっこいい。俺、あの人になりたい!
――案外、見た目女の子っぽいな。行けるぞ。
――あ、あの!
だんだんとその数も少なくなってきたころ、
「ら、ライさん!」
エントランスを抜けて廊下に入りかかろうとしていた俺の足を止めたのは、一人の高くて、そして震えていた声だった。
振り向いてみれば、自分の腰くらいの身長の、小さな女の子が立っていた。服装から見て小学生だろうか。
「あ、あの……サインくれませんか!」
俺は一瞬で硬直した。サイン? そんなもの、書いたことは無い。妹が上げている動画になんやかんやで出演させられている俺はSNSなどでそこそこの知名度があるらしいが、にしてもサインをせがまれるなどされることはいまだ未経験だし、されるほど有名になったはずもない。
しかし、
「ここに書けばいいね?」
差し出してきたハンカチに、丁寧にサインを描き始めた。正直「かっこいい」と言われるような立派な物ではないサインであるが、自分なりに丁寧に描いた。
「ごめん。サイン書いたことなくてさ」
ペンにキャップを嵌めて、少女に返す。少女は満面の笑みを浮かべて、「ありがとう!」と残し、人込みの中に紛れていった。合流していたグループを見れば、それらが中学生の集まりだということに気づいた。
「……サインかぁ」
こんな俺でも、ファンが付いたということか。
俺は意図せず、勝手に自分の胸元に縫い合わせた〈天武〉第二位のバッチをぺたぺたと触っていた。
〈東京支部超音速航路パイプ第一番ゲート〉
〈推進力増強シューズ・メンテナンス完了〉〈レール追随モード起動〉
〈速度制限を1100km/hに固定〉〈抵抗防御シールド展開を確認してください〉
もの白い戦闘服に身を包みながら、俺は空を飛べる〈推進力増強シューズ〉という靴を履いて各国間超音速航路の透明なパイプに足を付ける。周りは特殊強化ガラス張りで、丁度人間一人分が入れる位の大きさである。
ガラス張りなので、下も上も透けている。眼下に映るのは十六年もの間、数えきれないほど通り抜けた〈発着場〉のコンクリだ。そして左奥には世界一を謳う強固なセキュリティゲートが赤と青の光を明滅させている。何度あそこで認証に失敗し追い出されかけたか。〈天武〉になってからは組織証のカードを入れればすぐ入れるのだが、それになる前、いわゆる下積み時代には、あのように、ビービーブザーを鳴らされて警備員に取り押さえられたことも沢山あった。
「懐かしいなぁ」
なんて零しながら、上部の開閉弁を大きな音を立てて閉めた。それの直後、ぷしゅーと音を立てながらパイプの外部装甲が稼働し、パイプ内の空気が薄まる。よって酸素濃度も下がり、何時間もこの中にいると酸欠となるが二年ほどこれで大陸間を行き来すればなれるものである。
〈推進力増強シューズ点火準備完了〉〈通信システムをパイプ内設定へと切り替え〉
一度、戦闘用補助システム〈HalOS〉がシャットダウンし、空間投影ディスプレイの電源が切れ目の前に浮かんでいたHUD表示が再起動する。
〈一番線・開通を確認〉〈情報・十二番線事故通行止めのためオーストラリア支部にて分岐〉
〈出発可〉
軽めの効果音と共に浮かび上がってくる、大陸間超音速航路パイプ内専用のHUD表示。普段と違う点は速度計が独立したタブで左上に浮き上がっていることと、その下に路線図が詳細に浮かび上がっている点である。
〈スーツスラスター起動〉〈出力微小・安定〉
組織服に四つつけられた黒い出っ張りから青い光が輝いたかと思えば、うつ伏せだった自分の体が狭いパイプの中で浮上していく。
出発の準備は完了。今から五時間ほど、この狭いパイプの中過ごすこととなる。まぁ、それも任務のためと考えれば、そして無事ここ東京支部に帰ってこられるならばそう憂鬱なものでは無い。
「……デパーチャー」
いつものセリフを放つと、ぐわぁぁん、と重低音を響かせながら靴の底から熱を感じる。そして、
〈種別……快特〉〈南極支部行・[S2]〉〈第二東部区域超音速航路・開通〉
〈加速開始〉
とテロップが一秒前後浮き上がった後、ゆっくりと俺の体は前進していく。そしてHUD表示の奥に緑色のシールドが無駄に派手なエフェクト光を輝かせながら現れる。
〈速度を280km/hまで加速します〉
透明な筒に包まれながら、俺はゆっくりと動いていく。ゆっくりと言えど60km/hはもう到達しているのでチャリよりスピードは出ていることになるが。
眼下に広がる光景が少しづつ速さを変えて塗り替えられていく。十年前の〈地球侵略〉で滅びかけた東京。今や元通り、いや更に近未来感を備えた完璧な都市へと仕上がっている。超音速航路パイプは〈ハーモニア〉組織員しか使用することが出来ないが、それに似た透明の筒がそこかしこに走っている。ビルの壁面はハーモニア東京支部と同じ特殊装甲で作られ、一部分だけ色が褪せているパネルには〈アルミス〉対抗用の機関銃がいかなる場合でも出撃出来るよう埋め込まれている。そんなマーブル模様のビルの壁の合間を縫って何とか生きる苔など植物類。エアコンの室外機をすっかり覆ってしまう中くらいの木。透明なパイプを包む出所不明の太い根。〈アルミス〉の地中ゲートの真上に存在する、〈東京〉は、今日も一日、眠ることなく動き続けている。
ふと、真後ろへと頭の向きを変えた。視界に入るのは曇った透明のパイプを透いて見える、巨大な摩天楼。
俺の家がある、地上百五十階の巨大な防衛基地は苔むしながらも、巨大な900mm迫撃砲がその巨大すぎる砲身を太陽に翳している。ロマンどころか税金の無駄遣いであると個人的に思うが、一キロ近く離れてから改めてその城郭を眺めてみれば、蔓延る摩天楼の侵略は不可能だと思う。〈東京〉。写真で残る昔の風景はすっかりと変わってしまっているが、ここが日本という極東の島国の、首都である。
〈速度を1100km/hまで加速します〉
どこぞのアニメで見た電脳都市みたく、張り巡らされた電線に付随する電柱。昼間なのにも関わらず最大輝度で煌めく電光掲示板。そして、
雲がふわりと浮かぶ、〈快晴〉。
空は水色に染まっていた。
〈気象・限定浄化装置の影響により、午後四時頃から局地的な豪雨が降るおそれがあります〉
〈空度・72%〉
前面ガラスの、透明なパイプを颯爽と駆けながら、〈快晴〉な〈東京〉をあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます