深淵、戦争前夜

 二日ほど後にドラゴは、アビスとの音声通話を完了した。

 機械的に調整しているのかもしれないが、かなり若い女性の声だった。

 中型規模の宇宙ステーションほどある、超を二、三重ねてもいいような、巨大な宇宙艦船。

 それがアビスの居城だ。無論、周辺には大小多数の艦船が存在している。

 名を『アゾルテ・Tー211』というらしい。名前の由来に興味はなかったが、おそらくは宇宙空間の座標だろう。

 アゾルテは中心部に複数のカプセルドが搭乗し、当然ながらアビスが統括指揮を取っているとのことだった。

――期待している、か。

 そうドラゴは述懐した。

 言葉を鵜呑うのみにするのはまずいだろうが、恩を売るには一番良い手合いだろう。さらに言えば、大変な金になる。

 アビスも親衛隊として、優秀な特殊部隊としてのカプセルドを配備しているのだが、フリーランスや現地の部隊からも一定の戦力をつのっている。

「不気味なくらい、戦力過剰な気はするな。

 戦力の示威にしても、そこまでやるほどか? 昔のような戦争ができてしまうぞ」

 そう言ったカプセル内のドラゴの視界にドラグーンが、ローグドローンの大規模集団を表示させる。

 ローグドローンの大規模集団は、さらに各地に分散して配置されており、どこかで示し合わせたかのように戦闘態勢に入っていた。

 数にして数百万のドローンの群れである。

 進軍があれば、こちらが包囲される程度の戦力ではあるだろう。

「多すぎる。

 何かがおかしい。どこかのステーションの残骸を分解して、取り込んだのか?」

『肯定。

 侵略者インベーダーが破壊した残骸から増殖したようですね」

「インベーダーが指揮している? やつらが黒幕ということか」

『可能性は十分に高そうです』

 ドラグーンも否定はしなかった。

「インベーダーは本気で、勝算があるのか」

 にわかには信じがたい話だった。

 確かに、ドローンの大群は動きを変え、扇状にこちらを囲んでいる。

 分散配置も良いところだが、ローグドローンの陣形の変更が容易な点は変わらない。

 人工の知性体は、恐れも容赦も知らない進軍でこちらに牙を剥くことだろう。

 何より――

「インベーダーそのものも動くだろうな

 ドローンはあくまで隠れ蓑かも知れない。

 何らかのタイミングで動くはずだ。

 例えば、ドローンとの戦争で少しでも戦線が混乱したときにでも」

『我々の一存では、対策は不可能です』

 先回りして、ドラグーンが回答した。

「一兵士として、上手く動くさ」

 ドラゴも、慎重に投げやり的な答えを出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドラゴンズ・イン・アビス 書い人(かいと)/kait39 @kait39

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ