ドローン・チェス3

 対ローグドローン戦線におけるコールサイン、『カプセルドD』――すなわちドラゴとドラグーンが単身でクイーン側へと攻め込んでいくのを、他のカプセルドたちも確認した。

 他のカプセルドの考えは実のところマチマチだったが、実際に取った行動はいつでも動けるようにしつつ、静観を決め込むというものだった(現地点での戦闘は行っていたが)。

 独断専行をとがめたのは、カプセルドの撃沈による戦力の低下を危惧きぐした通常――非カプセルド艦隊の側だった。

「奇策であろうと、俺は俺とドラグーンを信じる。交信は以上だ」

 深呼吸をして終わる頃には、ドラゴは完全に交戦状態となっていた。

 ゆうに二〇門近く、ほぼ全方位を狙える電磁投射砲レールガンが超合金砲弾を放ち、ワープ妨害艦たるナイト・ドローンを優先的に沈めていく。

 あらかめ散布・回遊させていた、ドラグーンが囲うビット兵器によって周辺の敵ドローンを精査・探知する。

 クイーンまでの距離は数百キロ程度。守りは極めて高いと誰もが判断する。

 戦況をドラゴとドラグーンがやりとりをする。

「ナイトはあらかた沈めた。まだ撃てないか?」

『発射後に追加の妨害等を受け、沈む危険が三〇%ほどあります。推奨はできません』

「絶対的な勝利は前提条件だな」

 すでに超合金弾を撒き散らしているというのに、会話はまだ撃ちたりないとでもいうものだった。 

 戦闘状態を見れば、単身で突撃したドラゴがその場しのぎで周辺のナイト――ワープ妨害艦――を始末しているだけに見えるはずだった。

『周辺一〇〇kmのナイトを完全制圧、行けます』

軸合わせアライン

 言うか早いか、すでに照準は完了していた。すなわち二〇〇km先のドローン母艦・クイーンの中心へと。

 ドラグーンの進行方向の先に、クイーンは居た。

 素粒子弾薬チャージが活性化、最終段階に入る。

「ファイア」『ファイア』

 ドラゴとドラグーンの声が高らかに唱和する。

 ドラグーンに唯一、一門のみが搭載を許された主砲、荷電粒子砲『CPC-21 ドラゴンズブレス』が、その核融合炉から莫大な電力供給を受けて発射される。

 竜の息吹。

 亜高速まで専用の加速器で加速された素粒子が放出され、光の奔流がクイーンのど真ん中を正確に射抜いた。

『全軍に通達。カプセルドDはクイーンを完全制圧、撃沈しました。

 弾薬及び電力キャパシタの消耗しょうもうが激しいため、ステーションまでワープ、一時撤退します』

「なんと……素早い……!!」

 四〇代後半の、非カプセルドの戦線指揮官は舌を巻いて驚き、帽子を取った。他のカプセルドからもおおむね、称賛する反応が得られる。

「これがカプセルド・ドラゴさんの実力……!!」

 戦艦の乗組員の一人として参加していた、以前ドラゴとステーション内で出会った眼鏡の青年も、心底驚いていた。


『味方の戦線が活発化しています。

 補充が終わる頃には、詰みメイトといったところでしょう。』

「チェックをかけたのは俺たち。悪い気分ではないな」

『カプセルドもそうでない艦隊も、指揮系統の中枢を失ったドローン艦隊に食らいついて各個撃破しています。

 連携そのものは理想の四〇%程度と見られますが、逆に柔軟性のある戦線構築ができるとも言えます』

「イレギュラー要素があるということか」

『無論、今戦闘でのもっとものイレギュラーは……』

「言うまでもないな」

 ドラゴはカプセルの中で笑った。

 後で帰ってきた眼鏡の青年に、船内から挨拶をして、おそらくはそのまま出港だろう。

 1つの戦争が、また終結したのだ。

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