謎の侵略者

 大部分の人が住まう宇宙・宙域を手に入れし女帝、アビスはその話を聞くとすぐさま決断を下した。

 話とは、管轄かんかつ外となっている地域での戦闘被害が増加しているとのことだった。

 破壊されたステーションの総数や失われた人命、資産的価値などをかんがみて、彼女は『支援活動』の名目で軍隊の大艦隊を編成し、送り込んだ。

 その辣腕らつわんおとろえておらず、遠い地域の軍事バランスを調整する形で艦隊が再編成され、優秀な現地指揮官に処理は一任された。

 

 大型艦一〇〇隻、中小合わせて九〇〇隻。計一〇〇〇隻のアビス麾下きかの中規模艦隊が偵察任務についていた。

 情報では、被害を被ったステーションや艦船は、通常有り得ない壊され方をされていたという。

 極めて鋭利な刃物、それこそ単分子のカッターか何かで物を切ったような状態で残骸はあった。

 レーザーで溶けたわけでもなく、ただ分割されている状態の物体が多かった。しかし、宇宙ステーションを両断する大きさのカッターなど、用意はできまい。

 運の良し悪しはともかく、爆発せずに残った残骸から『切れ味』の確認が取ている。調査班も艦隊の中に分散して任に就いていた。

 敵の数は極めて少数とされ、これまで確認できた最大の艦隊フリートでも三隻が同時に現れた程度だった。

 偵察任務の総指揮官は各自に船を分散して、戦線を広げている。

 戦争をするならば、かなりの無防備だがこれはあくまでも調査のはずだった。

 海賊もアビス麾下の艦隊なのだと理解すれば、尻尾をまいて逃げ出すはずだろう。

 侵略の代償を身をもって支払わせてやる、そう指揮官は部下たちに告げた。

 

 偵察中の艦船が、僅かな信号をキャッチ、入手した宙域の艦船データをさらに拡大する。

 それは小型から中型、戦艦には遥かに及ばない艦のサイズだった。

 中心部には大きく、光る球体が埋め込まれている艦である。

 あるいは光る球体を中心に艦が建造されているのか。

 流線型かつシャープ。攻撃的な、ある種の獰猛どうもうさをたたえた艦船だった。

「見たことのないふねだ……」

「データベース、該当ありません!」

「AIによる推論を開始します」

「まさか本当に侵略者インベーダーか?」

 答えは彼ら自身の損害、その身をもって示される。


 アビスにとっても、偵察艦隊のほぼ完全な全滅は寝耳に水だったはずだ。

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