ドローン・チェス2

 ローグドローンのクイーンは、すでに発見されている。

 目標は無論、クイーンを含めたドローン船団の壊滅。

 迂闊うかつな戦力は新しいドローンの素材として吸収される恐れがあるので、大兵力を結集しての作戦となっている。

 もっとも、宇宙ステーションの警備にも人手を割かなくてはならないため、兵員を集めるのには苦労しているようだった。

 交渉の末、高額の報酬でカプセルドのドラゴは対ローグドローン戦に参加することとなった。

 雇われたカプセルドはちょうど十名。他にも非カプセルドの戦闘艦が一〇〇〇隻近い艦隊を成していた。

 大型艦である戦艦一隻を最前線に、さらに周囲を各艦船が覆うように配備され、最終的な全体の陣形はおおむね、ひし形となっている。

 各頂点の近くに戦艦やカプセルド艦、その他高火力艦が配置されている。

 一見統制の取れた集団に見えるが、カプセルドだけは自由行動が許されていた。

 戦闘において最も有利な判断ができる存在がカプセルド本人と、その艦に標準搭載されている高性能AIだからだ。

 ドラゴも最初は右翼への配置を選んだが、戦線の先端にドローン集団の移動を確認したため、そちらへ移動していった。

『これより三〇〇秒以内に、敵ドローン・ポーンとの交戦に入ります』 

 戦艦の索敵担当者の一人が、やや緊張をはらんだ声色で全軍に通達する。

 ローグドローンはおよそ二〇〇〇機からなる無人の軍隊を形成している。

 敵ドローンの形状はいびつだった。

 基本形はあるものの、細部が微妙に異なっている。他の船から素材を得て増殖したからなのだろう。

 その思考のコアとなる自律機動型AIは古典的なものと推測されているが、増殖の過程で突然変異が出る可能性も否定はできなかった。

 それがドラゴたちに有利となるか不利となるかは不明だが、予想を当てるよりカプセルドの自己判断で柔軟な総指揮となったほうが良いとしている。

 現場、非カプセルドの指揮戦艦も危険度はそれなりに分かっているので、杓子定規しゃくしじょうぎとはならないようだ。

「一見、雑な陣形に見えるが」

 ドラゴが呟き、ドラグーンが返答する。

否定ネガティブ。敵ドローンは全て1個の思考を持っています。

 こちらの行動により、極めて精密に戦線が変化します』

「まるで、量子の観測問題だな」

 ドラゴの軽口を無視し、ドラグーンは戦況報告を続ける。

『推定される大まかな戦線パターンを提出。

 最頻出三、他重要十二、さらに約二〇〇〇パターンを一〇〇パターン程度にまで絞り込み中』

 最重要と示された戦線パターンはドラゴにも一目見ただけでわかった。

 こちらの最前線に向かってポーンと高機動型のビショップ・ドローンが襲撃しかけ、こちらの戦力を類推、その後は戦線を調整しつつ『捕食活動』に入るパターンだ。

 為す術なくドローンのえさになってやる気など、毛頭ない艦隊だったが。

『ビショップ・ドローンが後退しています。戦線の変化に対応中……。パターン、絞り込み完了』

「防御陣形か……」

 ドローンは最初の交戦で二〇〇機前後の歩兵ポーンを犠牲にし、こちらの戦力を計ったようだ。

 そのまま突っ込むほど無策ではないようで。可能でも攻略に早くとも三時間ほどはかかる、長期戦が戦線パターンとして提出されていた。

「単騎で喰い破れるほど、甘くはなさそうだな」

肯定こうていします』

「最も危険なのは現在はナイト、か。

 味方の戦艦がワープ妨害スクラムをかけられて沈めば、戦力が大きく減ってしまう」

『各戦艦の位置にはいつでもワープできます。

 重要なのは、他のカプセルドとの連携でしょう』

「こちらは小型艇だからな。

 あまり戦力として期待されていないのかもしれないぞ」

『戦線パターン再度変化。また、戦術も変更可能です。

 クイーンに対する電撃戦が可能となりました』

「……おい」

 新しいパターンを確認したが、行けるといえば行ける。だが、少々の危険が伴う敵戦線の中央突破だった。

『"ドラグーン"を舐めてもらっては困ります』

「わかったよ、行こう」

 AIにも、矜持きょうじというものがある。

 そういうことらしい。

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