ドローン・チェス1
ワープ先は、ステーションより一〇〇〇キロメートル手前。
ステーションの付近では特殊なワープ妨害装置が働いており、座標が簡単には特定できないようになっている。
悪意ある者が、核兵器などを『デリバリー』したりできないような仕組みだった。
大した驚きではなかったが、一〇〇〇キロ手前といえども監視装置や武装ドローンなどが山ほどあった。警護艦もだ。
事前に示し合わせてあった連絡及び手順通り、やや速度を落としてステーションの入港を進める。
不審な動きをすればハジかれる。
少しは緊張して、真っ直ぐに進入するドラゴだ。
『Your Department store』それがステーションの名前だった。
電子加工された女性の声がドラグーンに送られて、ドラゴにも伝わる。
『貴方がブラッドバス海賊団の多くを壊滅させたのは知っています。
ドローンによるコンテナチェックが問題なければ、入港を許可します』
「それは感謝する」
ここのステーションの
ステーションに雇われた傭兵などには別の規制カテゴリーが割り当てられるのだろうが、ドラゴはどうしても流れ者なので、ここは規制に組み
「ちなみに、コンテナにはレア
『わかりましたが、確認は絶対です』
わかったよ、とはいちいち言わなかった。
話がこじれて撃沈でもされたらたまったものではない。
スラスターの逆噴進機能で速度をほぼ0、つまりは停止させて艦の
ドローンが確認するに任せる。
コンテナ内は一定の重力が常に発生しており、中身が深宇宙の彼方へと飛んでいくことはない。
『問題の判定はありませんでした』
「そりゃどうも。先に進んでいいのか?」
『カーゴを閉鎖後、こちらの指示通りにオートパイロットを起動してください。
歓迎します、ミスター・ドラゴ』
ドラゴは久しぶりにカプセルから外へ出た。
身体機能は常にAIドラグーンの機能の一環として、一G(母星の重力)下を想定して調整がなされているが、それでも宇宙船の中にいるときとは違う感覚だった。
どちらを奇妙と置くべきか、どっちつかずで不思議な気分のドラゴだった。
ステーション内部も宇宙船の停泊場所以外は基本的に一Gだ。
〇Gだと骨が脆くなるなど様々な身体機能が低下していくので、人類は母星の重力を維持したがる傾向にある。
非カプセルドの海賊が掘っ建てた小屋のようなステーションなら、重力の調整装置がなく、身体能力の低下はカルシウム錠剤などの調整薬品の投与により補うなどがあるらしい。
海賊の悲惨な現状だが、同情する者は居ないだろう。
裸で船の停泊施設から宙を漂って移動し、合金製の橋を伝って重力のある仮の個人用停泊施設にたどり着き、すぐに着替える。
各色の石油製品の服が置かれていた。
真緑色を選ぶドラゴ。耳にはドラグーンとやり取りができる小型のイヤーピースが備わっていた。
『オススメは黒の服です』
わざわざ要らんアドバイスだ、と思ったがドラグーンはステーション内の服装を演算機能の無駄使いばりに使用して計算したらしく、通路からエントランスに出ると、黒服の人間が確かに多かった。
完全に部外者感が丸見えだったが、口を結んで耐えておくことにした。
『だから、言ったでしょう?』
うっせぇわ、とは思った。
「
今どき珍しい眼鏡(ファッションかもしれなかったが)を掛けた青年が、白い壁の広間に入ったドラゴに話しかけてくる。
「行きがけの駄賃で、つまりはついでに倒しただけだ。皆の航路は安全なほうが良いしな」
口笛を吹くものも居た。ドラゴを含めて五名ほどの空間だ。
「ついでで、核武装の一団を粉砕、ですか。
カプセルド、ですね。
愛想良く、眼鏡の青年が答えてくれる。
ドラゴの首や背骨にはカプセルと連結するための穴が空いている。
痛みなどは口や鼻の穴と同じで存在しないが、完全に違和感がなくなるのには時間がかったものだ。
「まあ、な。手術は何年も前に受けたよ」
「カプセルドは、手足のように宇宙船を動かせるといいます。
最低でも十人は必要な煩雑な作業を、AIと共に行えると……」
青年はカプセルドに憧れがあるようだった。
羨望の眼差しを向けられ、どうすれば良いのかわからないドラゴだった。
カプセルドの普及率は確かに少ない。
宇宙の全人口中のカプセルド率は、一%をゆうに切っている。
適応手術にはそれを行える贅沢なステーションと、本人の適正診断、決して少なくない手術費用、そして何よりも主に戦闘艦が必要になるのだ。
アビス女史が仕掛けた大規模戦が終結して兵装の価格は暴落したとはいえ、並の手段でカプセルドになるのは難しいだろう。
他愛ない会話から続く形で、「ローグドローンが大量に発生しているようなんですよ」
と、青年がそう言った。
言葉の裏には
ローグ(ならず者)ドローンというのは、深宇宙に存在する、ある種の科学技術の暴走だ。
無人の宇宙船の一種だが、ドラゴがドラグーンに装備しているビット兵器とはだいぶ種類が異なるものになる。
該当するタイプのドローンは、元々は撃沈した艦船などを取り込んで自己増殖を行えるようにした兵器で、度重なる軍拡――アビスその他を問わず――で様々な形式が量産された。
管理しきれなくなったドローンが放置され、自己判断により機能停止をしないまま放置して宙域を荒らすケースはままあることだった。
放っておくと、数千数万隻からなる軍団を形成しかねないものもあるくらいだ。
「マザー・ドローンも居るのか?」
ドラゴも訊ね、青年が応じる。
「この地域では
ドラゴは鼻を鳴らした。危険な匂いはしてきた。
さらに言えば、欲深い金の匂いも、である。
ドローンはその性質から役割をチェスに
実際のチェスとの大きな違いは、キングが存在しないことだろう。
自己増殖機能を持ち、さらにクイーン・ドローンは自身の代わりに小型のドローン――
ポーンは小型かつ性能も最低限だが、数が揃えば厄介となる。
ルーク、ビショップ、ナイト・ドローンもそれぞれ同様だ。
ルークは、機動性は低いが高火力なものに名付けられ、ビショップはその逆。
ナイトは変則的な行動能力――例えばワープ妨害などの特殊機能――を持ったドローンのことを指すことになる。
要するに、ドローンの脅威を取り除くには絶滅に追いやらなければならない。
それが現実的ではないほどに事態が悪化しているのならば、クイーンやその周囲のドローン軍団を打ち負かし、擬似的ではあるがチェックメイトをかける必要があるのだ。
(ドラグーン、お前はどう見る?)
常時、脳波を読み取っているAIに問いかけるドラゴだった。
『総合的にみると、敵ドローン船団は各宙域と比較して、平均的な戦力です。
こちらの戦力が不明なため、軍事的行動は取らないほうが良いかと』
「近々、作戦があるらしいのです
自分も、通常の戦艦に乗組員として参加することになっています」
青年の言葉に、
「詳しい戦力を聞けるかな? データがあるなら共有の許可をくれ」
そう聞いてみるドラゴだった。
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