十一話 王都クヴァール

 ボースハイト王国、王都クヴァ―ル。

 王都クヴァ―ルは城郭都市で、高い外壁に王都全体が守られている。


 私達が住んでいたアンファングが帝国に攻め落とされ、王国に宣戦布告されたことはすでに王都まで伝わっていた。

 別の街もカニバルに攻め落とされてたみたい。


 だから王都に入るための検問も凄く厳しくて、私達のことで少し揉めてたけど、ゴルドさんが何か渡して通してもらえた。

 あっさり通してもらえたけど、何渡したんだろう?


 壁の外から王都の中はあんまり見えなかったけど、中に入ると沢山の建物が建っていて、とても綺麗で栄えている。


「ほぇ〜! アリア、見てあそこ!! 露店がいっぱい!!」


「ホントだ! 人がいっぱいで凄いね、ヒメナ!」


 どこを見渡しても、建物と露店と人。

 大勢の人達が広い道を闊歩していた。

 初めて見る景色だ……こんな人が集まる所ってあるんだ。


「ちぇっ! ガキかよ!! テンション上がっても腹は膨れねーぞ!!」


 ブレアは花より団子みたい。

 だけど何かそわそわしてるから、やっぱり色々気になってるんだろう。

 素直じゃないなぁ。


「君達はここで降りるぶひよ。ベラはワシに付いてくるぶひ」


 あれ? 王都までの約束って聞いてたからここで降りるのは良いんだけど、ゴルドさんはベラをどこかに連れてく気?

 ゴルドさんはベラのことすっごい可愛がってたから、養子にしたいとかかな?


「ごめんなさいねぇ、ゴルド様。私もここで降りるわぁ」


「ぶひぃ!? ベラはワシの屋敷に来てワシの愛人になるぶひ! 豪華な食事も良い服もたくさんあるぶひ!! お前が付いてくると思って色々してやったぶひよ!!」


 養子じゃなくて愛人!?

 何言ってんの、この豚!!

 養子で幸せにしてくれるなら話は別だけど、そんなのは絶対許さないんだから!!


 私達がベラをゴルドから庇うより先に、エマがゴルドの手を弾きゴルドを睨む。

 怯むゴルドに、ベラはニッコリと微笑んだ。


「私達は一蓮托生なのぉ。ごめんなさいねぇ」


「ぶひぃ……ぶひぶひ!! ぶひぃ!!」


 いや、何言ってんだよ。

 怒ってるんだろうけどさ。

 豚が興奮してるようにしか見えないよ。


「ゴルド様。あんたにこんな所でウダウダやられると俺達も仕事を終えられん。おい、連れて行け」


 怒る豚を傭兵達が無理矢理羽交締めにして連れて行った。

 ゼルトナさん、また私達を庇ってくれたのかな?


「ここで別れだ」


 ゼルトナさん達は王都に着いたことで、ゴルドさん達の商売の道中の護衛だった仕事を終えた。


「ゼルトナさんはこれからどうするの?」


「これからアルプトラオム帝国と戦争になるからな。傭兵の俺達にとっては稼ぎ時だ」


 傭兵は戦場で闘うことが一番の仕事らしい。

 ゼルトナさん達はこのまま前線に行くみたいだ。


「ゼルトナさん、色々ありがとう!! またねーっ!!」


 手を振る私とアリアに、ゼルトナさんはそっけなく片手を上げて傭兵達と去っていった。


 ゼルトナさんは無愛想だけど、このキャラバンの中で唯一良い人だった。

 ゴルドも優しかったけど、さっきの様子だとベラを愛人にしたいがためだったんだろうしね。


 ゼルトナさんだけは私達を傭兵から責められた時庇ってくれたし、旅の道中に私とアリアの話しをたくさん聞いてくれたんだ。


「ゼルトナさん良い人だったね、ヒメナ」


「うんっ!」


 ゼルトナさん達と別れ、今後のことについて私達は話し合うことにした。

 開口一番ルーナが切り出す。


「王都に着いたのは良いけど……これからどうすればいいのかしら?」


 王国の中で一番安全な王都に着いたのはいいものの、私達には何のアテもない。

 とりあえず身の安全がある程度保証されるということで、王都に来たのだから。


「う~ん、一番良いのは孤児院とかに受け入れてもらうことだねっ!」


「その次は住み込みの仕事をもらうことかね。衣食住、全部揃うしね」


「後は、日雇いの仕事とかかしらぁ?」


「傭兵になるって手もあるぜ!! 帝国ぶっ倒して金貰えるなら最高だしな!!」


 フローラ、エマ、ベラ、ブレアがそれぞれ案を出してくれた。

 もちろん、ブレアの考えは論外だ。


「……子供の私達にそんなことできるの……? ……それが無理だったら……どうするの……? ……ホームレス……?」


 確かにメアリーの言う通りだよね。

 女でしかも子供な私達が出来ることなんて、限られてる。

 私達を働かせてくれる所なんてあるのかなぁ……。


「まっ、考えてても仕方がないないっ! どうにかなるっしょ!!」


 元気印のフローラの明るさは、今の私達にとって救いだ。


 きっとどうにかなる。

 そんな想いで私達は行動に移し始めた――。



*****



「ほえぇぇ!! 孤児院にも入れないし、雇って貰えるとこもないし、なんなら傭兵も無理だったじゃんっ! これからどうすんのよーっ!!」


 やっぱり、どうにもならなかった。

 これからどうしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る