第16話 作戦開始

 本番の夜。誰もいない静かな校舎に入り、解決しに行く。作戦は至ってシンプルである。Jessicaが前で戦い、アリスが後方で支援を行う。そして俺は案内など雑用をやる形だ。


「予定通り、二宮金次郎像から攻略していくよ」


 Jessicaは日本語が分からないので、翻訳アプリを使って、伝えた。静かに頷き、魔法で槍を組み立てている。メカっぽい部分があり、男のロマンを感じさせる。リアルで戦っている様子を見られるのは実にありがたいのだが、ここで釘をさす必要がある。戦闘を得意としているし、規模によるが学校の物を破壊してしまう可能性があり得る。ガツンと言っておく。


「Don’t break, Jessica」


 即座にスマホの翻訳アプリで返事をしてきた。


『分かってるよ。こっちだって弁償金払いたくねえし、あの口うるさい奴に言われたかねえし』


 口うるさい奴が誰かは不明だが、経理担当の者だろう。そして相当やらかしていたことを何となく把握した。


「そろそろ二宮金次郎像があるとこだね」


 敷地に入り、校舎前に二宮金次郎像があるのだが、土台があるだけになっている。既に動き始めたみたいだ。そうなると向かうところはひとつしかない。


「I see」


 Jessicaはそう言って、俺に槍を預けて、校舎にダッシュした。一体何をする気なのだろうか。


「Wow」


考える間もなく、Jessicaが戻って来た。重いはずの像を脇に抱えてきている。どうしてそうなった。


「多分停止させてるんだと思うよ」


 アリスが解説を入れてくれる。その辺りは素人の自分でも分かってはいる。違うところで気にしているのだ。主に筋力とかそっちのベクトルで。


「いやそれはまあ分かるんだけど」


 視線を像の方に移す。Jessicaは気にせずに、元の場所に戻している。アリスが移動し始めたので、付いて行く。


「Hurry up」


 魔法の効果が短いのか、Jessicaが急かす。アリスもそれに理解しているのか、手で像に触れる。


「これでよし」


「これで動かなくなったのか?」


 何か動くのではと思って、恐る恐る聞いてみた。


「うん。大丈夫。魔法を解いたら、二度と発動しないから」


「そうか。2つめ行こう」


 アリスが大丈夫というのなら、その通りなのだろう。俺は校舎を見る。あの中に花子さんがいる。昇降口から入って、2階に行く。


「普通に職員室前にいたな。花子さん」


「うん。びっくり」


 花子さんが職員室前にいた。仁王立ちという奴なのだが、身長とか容姿とかを考えると、可愛い子が偉ぶっているだけにしか見えない。


「はー……」


 その花子さんはJessicaを見て、自分の胸に手をあてる。ため息を吐いている気がした。容姿を気にするタイプだったかと傾げたくなる。


「ねえ。花子さんって、胸の大きさとか気にするタイプ?」


 アリスが小声で聞いてきた。少なくとも、俺の記憶にはそういうタイプはなかったはずだ。


「いや。見た目とかそういうのって口裂け女だと思うんだけど」


 一応小声で返答した。そのはずだったが、花子さんには聞こえていたようで、


「あの女とは違うよ。多分」


 自信なさげに否定した。


「ねえ。お姉さんたち、7つめのと戦うつもり?」


 そして確認してきた。花子さんが心配そうに見つめていることから、最後は戦うことになるのかもしれない。


「そうだよ」


 アリスは膝を曲げて、花子さんと同じぐらいの目線の高さにして、答えた。


「Hey. This kid, what did you say?」


 Jessicaは日本語が分からない。何て言ったと聞くのも無理はない。スマホの翻訳アプリを使って、英訳を彼女に見せる。


「あ。はい。こんな感じなんですけど」


 マイスマホを奪いやがった。英語を日本語に訳して、花子さんに見せる。ちらりと見えたが、それが仕事だみたいな感じの文章だった。あの反応からして、多分自分の意訳は間違っていないはずだ。


「そっか。それなら安心かな」


 安心した表情を見せていた。それと同時に、花子さんの体が消え始めている。末端から透明になりつつある。


「あれ。自力で魔法解除出来るんだ」


 アリスが驚く気持ちは分かる。魔法が勝手に解除はないとされているからだ。


「自立型だから。お姉さん。お兄さん。あの魔物を倒してね」


 花子さんは完全に消失した。魔力の残り香すらない。


「魔物か。7つめのあれでいいんだよな。作戦会議でも分からずじまいだったよな」


 あの時は基本的な動きの確認をやっただけだ。情報をまとめ、Jessicaに伝え、役目を確認して終了。もう少し長くなると思っていたが、20分ぐらいで済んだことにびっくりしたことを思い出す。


「うん。時間があれば、解明は出来たかも。魔法の構造は6つの不思議の魔力の線が1つに集まっていた。時が経っていて、脆くなっていた。そして高校生時代の彼が見たもの。6つの不思議は封印の限界を示したものだったのかも」


 いつ。何故。ミステリー定番のホワイダニットなどが分からない。2人はその辺りを気にしていないみたいだ。謎を暴くのが仕事ではないからだろう。個人的に気になってはいるが、架空の名探偵程の回転の素早さはないし、発想力もない。それでも分かる。今まで被害がなかったことが奇跡で、早めに解決しないとダメであることを。


「そうだな」


 普通の高校生である俺がやれることはかなり少ない。それでもやれるだけのことはやってみようと思う。

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