第14話 物騒なお姉さんと合流
胃がキリキリと痛くなりながらも、有名どころの鉄道の駅に向かう。近くにある富津野駅よりも建物が大きい。東京行きなどがあるため、ホームが広くなったと聞いている。この時間帯だと下校する学生やサラリーマン、主婦で賑わっている。いつもよりやたらと騒がしい。何かあったに違いないと、周囲を探っていく。
「あ。いた」
アリスがJessicaを見つけた。見ている方角を合わせる。空いているので普通に分かった。ザ・不良の女性といった感じである。赤毛を高いところで結んで、棒みたいなものを咥えている。黒色のタンクトップにダメージジーンズと、何とも厳つい。大体は避けて通るものだが、無謀なことをやっている人が普通にいた。別の学生服を来た金髪を逆立てている男だ。
「へーい。えーっと。キャンユープレイウィズユー?」
ナンパする度胸はどこから来たのだろう。拍手を送りたい。最後はユーではなく、ミーだと思うが、大差はないのでスルーしておこう。突っ込んだら悪化しそうなので。
「Ha?」
Jessicaがナンパ男にガン睨みした。遠くにいても怖い。間近にいるナンパ男なら相当だろう。
「し……失礼しましたー!」
怯えてどこかに行ってしまった。逃げ足が速い。アリスも行動するのが早かった。既に俺の隣ではなく、Jessicaのところに行っている。やり取りを見ているのだが、ヤンキーにしか見えなくなった。末期だろうか。
「トオル、こっちに来て!」
アリスに呼ばれてしまった。Jessicaが俺を見ている。威圧感たっぷりで怖い。さっさと移動して、自室でのんびりしたい。残念ながら、富津野高校に戻って、軽い夜の調査を行うわけだが。
「この人がJessicaだよ」
「マイネームイズトオルカミシロ。ナイストゥミ―チュー」
早口になってしまったが、怖いので仕方がないことだ。
「Jessica. Nice to meet you. Ah―……」
何かを言おうとしたらしいJessicaさんはスマホで何か打った。そして俺に見せた。かなり有名どころの翻訳機能だ。
『もしものことがあればぶっ倒す』
日本語訳が怖い。これだから翻訳機能は嫌いなのだ。いや。英文がああいう感じだから間違いはないのか。喧嘩腰にも程がある。怒らせないようにしておきたい。
「Let‘s go!」
アリスはにこにことした顔で言った。フォローとかそういうものをして欲しいが、スケジュール上厳しいのかもしれない。そう思っていたが、
「大丈夫だよ。ただ不器用なだけだから」
こっそりとアリスが言ってくれた。睨まれた側からすると、不器用というか物騒なお姉さんにしか見えないので励ましにはなっていない。
「お。両手に花だ」
校門前で陽菜と偶然会った。他人事のように言いやがる。確かに意味は合っている。そこは否定しない。しかし片方が物騒なお姉さんである。とてもじゃないが、羨ましいと言われても嬉しくはない。
「どうしたらそうなるんだ」
「いやー実際そうでしょ。ま。とりあえず。調査がんば」
「おー……」
陽菜が行ってしまった。Jessicaさんは校舎を見ていた。凝視していると言った方が正確だろうか。5時半頃なのでまだ予兆はないはずだが、警戒しているのだろう。
「Jessica. Relax」
アリスが言ってくれたことで、少しだけ雰囲気が和らいだ……気がする。校舎内に入ったことだし、確認をしておこう。
「今日は涼みの森の調査で合ってるか?」
「そうだよ。ちょっと見て終わり。今夜に色々と話し合って、明日に一気に終わらせる感じかな」
本番は明日の夜。流石に戦力外の自分は家にいる形になるだろう。トントンと叩かれた。Jessicaさんが俺に再びスマホの画面を見せる。
『お前も行くに決まってんだろ。おおまぬけが』
本当に口が悪い。どこぞのマフィアじゃないのだから、そういった言葉遣いをするのはどうかと思う。いや。多分俺を嫌っているからこその発言なのだ。そうじゃなきゃ、ここまで酷い翻訳にならない。それよりも日本語で話していて理解していないはずが、普通に流れを読み取っているところに驚きである。
「Jessicaは勘が鋭いからねー」
アリスがにこやかに笑った。癒しがアリスしかいない。俺の胃は大丈夫だろうか。無事に済んで欲しい。
「Alice. Can you talk about here?」
暫くはアリスが喋るだけになった。アリスが喋って、Jessicaさんが静かに聞く。この時のJessicaさんの顔はとても穏やかなものだった。面倒見のいいお姉さんにしか見えない。これだけ印象がガラリと変わることなんて滅多にないだろう。
「着いた! うわー夜近くだと雰囲気全然違うね!」
聞いている内に涼みの森に到着。普通の人の目に映らない住人がちょこちょこと出始めている。灯りとなって、暗くなっている森を明るくしている。幻想的な光景だと思った。
「そう言えば今日はリョーコが作るんだっけ」
遅く帰るので、今日の夕食当番はばあちゃんである。だからこその心配もある。
「そうだな。食べやすいように作るって話だけど、ばあちゃん和食が得意だからな」
「大丈夫じゃない? きちんと考えてくれてるよ。きっと」
こういった会話をして、あっという間に18時になった。アリスの手伝いをすべきだろうかと思ったら、右手首がめっちゃ痛くなった。Jessicaさんに強く掴まれているのだとすぐに分かった。
「Do not disturb」
単語は分からないが、ニュアンスで分かる。邪魔するなと言いたいのだろう。確かに素人が出たところで何も出来ない。見守るしかない。
「うわー……アベミツヒコもこういうの見たんだ」
アリスは何か見えたみたいだ。特に異変はない。だが俺ですら見えない何かを感じ取ったのだと分かった。話しかけても問題ないと思って、聞いてみる。
「おーい。どうしたんだ。こういうの見たって言ってたけど」
「えーっとね。6つまで解決したらっていう後の構造を見たら、小説そのまんまだった」
オカルト研究同好会が持っていた文学部の作品集の1つの作品、今なら確実に没になるであろうホラーを思い出す。無残に殺されていた。骨だけを残し、贓物と脳をどこかに隠した。最後はそういった終わり方だった。
「マジ?」
アリスが苦笑いした。こういう表情はレアである。
「うん。Jessicaを呼んでおいて正解だったかも。あー……しかもこれ色々と壊しちゃうかも。あとで校長先生と理事長に申請しておこうかな。頭が痛くなってきた」
下手したら戦闘で森が壊される。そういう可能性があるみたいだ。確かに頭が痛くなる件だ。上司に相談するしかない。
「そういうのはばあちゃんに相談しとこう。チャットで相談事あるって伝えておくよ」
「ありがとね」
アリスが笑顔で感謝の言葉を言った。頬が熱い。こういう反応になるということは、俺はアリスの笑顔に弱いのだろう。
「よし! 帰って作戦会議! その前にご飯! 頑張るぞ! ファイトオー!」
夜の時間になったので、俺達は静かに右手を高く挙げた。戦力外なのでやれることはないと思うが、アリス達が楽になれるようにサポートしていきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます