第13話 オカルト研究同好会
とうとう月曜日がやって来た。物凄く行きたくない。学校が嫌いだからではない。オカルト研究同好会に行くからだ。やる気がなかろうと、任務達成のためやるしかないのだが、というか既に到着している。
「本当に目立ってるよね。この看板」
言葉だけなら褒めているのかもしれない。だがアリスはドン引きしている。センスを疑っているのだと思う。禍々しい雰囲気でグロイ要素がところどころあるためだ。学校という公共の場で出していいのかと思うが、先生から指導をくらっていないからセーフなのだろう。
「だな。失礼しまーす」
いざ突入。引き戸を開ける。物置みたいな感じだ。左右の本棚に書物がたくさんある。前は文芸部の部屋だったらしく、その名残なのかもしれない。ただし、現在はオカルト研究同好会のホームだ。清楚とか真面目とかそういった雰囲気が吹き飛び、代わりに怪しい雰囲気が漂っていることが多い。今日は俺達が来ることを知っているのか、儀式とかは行っていないみたいだが。
「おっすー。上代」
天然パーマで苦戦している元クラスメイトの浜田が緩く挨拶してきた。
「おっす。浜田」
「紹介すっぜ。あ。もう始まってる」
浜田は誰かを紹介するつもりだったらしい。「始まってる」とは一体何の事だろうかと左側を見る。アリスが誰かと話している。相手はかなりの小柄だ。目視だが、150cmにも満たないだろう。黒髪を肩まで伸ばした日本人形のような顔立ち。平安時代のあの格好でも違和感ない気がする。
「えーっと既に話が始まってるアリスさんの話し相手がここのリーダー」
「マジか」
信じられない。見た目だけで判断するのは良くないとは思っているが、どちらかというと百人一首同好会にいそう。意外なこともあるものだ。リーダーらしい人はアリスと話し終わったのか、俺を見ている。こっちに来た。
「3年の加茂ふたばです。よろしく」
「2年の上代透です。こちらこそ。お忙しい中、お邪魔します」
「いえ。こちらも気になっていたことなので」
簡単な紹介を済ませて、本題に入るのかなと思った矢先だった。
「Hey! Futaba、入ってOK?」
「加茂さん、失礼するけどいいかな?」
この声は男子バスケ部のオカルト大好きコンビだ。本来なら練習があるはずだ。インターハイの予選が控えているこのタイミングで訪問は不自然である。
「はい。どうぞ」
あっさりと入室の許可を出す加茂さん。それでいいのかと言いたいが、こちらは客として来ているため、何も文句を言えない。引き戸を開けて、2人の姿が見えるようになる。やはり神崎さんとGeorgeだった。神崎さんの手に何かある。
「珍しいですね。オフ日でもないのに来るなんて」
「たまたま茶道部の佐藤さんから頼まれてね」
紙で包まれた何かを加茂さんの手に渡る。和紙のもので、茶道部からとなると、和菓子の類だろう。
「ああ。そういうことですか。どうせあなたのことだから、ついでに話聞ければと思ったんじゃないですか」
加茂さんは鋭かった。
「え。何で分かったの?」
神崎さんは目をぱちぱちとする。むしろ何故分からないと思ったのか聞きたい。加茂さんはため息を吐く。
「あのですね。インターハイ予選前に、キャプテンが寄り道してどうするんです。これから長丁場になりますし、用事が終わったんなら、さっさと出てください」
加茂さんの言っていることは正しい。
「うーん。確かに長丁場はよろしくないね。キャプテンとしてマズイムーブだ。落ち着いたら、Georgeと一緒に遊びに来るからね」
神崎さんとGeorgeが体育館へ。これで少しは静かになったと思いたい。加茂さんが仕切る。
「それでは今までの情報を統合して出てきた考察を話したいと思います。その前に整理をしておきましょう。今までの現象は全て富津野高校の七不思議に該当します。1つピアノが勝手に動くこと、2つ二宮金次郎像が校舎内で走ること、3つトイレの花子さんの出現、4つ人体模型が動くこと、5つテニスコートに無限の手が出てくること、6つ体育館に幽霊が出てくること。これで間違いないですね」
今まで見聞きして確認出来たのは合計6つ。あとの1つは謎のままだ。いや。それは違う。元から7つめがないのだ。
「7つめは不明ですが、魔力の流れが1つに集まっていることから、ある可能性は十分にあり得ます」
「あるんだ!?」
てっきりないと考えていたのか、アリスはびっくりしていた。ただの動力源だと考えていたからだ。俺もそういう考えに至っていたので、驚いている。
「まだ確定ではありません。ですがこの本から可能性として挙げてもいいと考えています」
机に置いてある昭和48年度の文芸部の作品集を見る。丁寧にジャンル分けされている。ホラーに属するものを見る。題名は「富津野高校七不思議の謎」である。主人公の男子高校生が夜の校舎に入り、謎を探るストーリーだ。最後の描写を考えると、R18禁相当な気がしなくもないが、着眼点はそこではないだろう。
「7つめがありますね。」
アリスの言う通り、7つめの記載がある。6つ全ての謎を解き終えた後、帰ろうとした主人公が7つめの謎と出会っている。そう言えば久保のリストで七不思議に関するものがあった。災厄どうこうがもたらされるとかそういったものだったはずだ。本で得た簡単な知識をアリスに伝えたからこそ、先週の調査で何故と言っていた。あの時は違うことで驚いてしまったので、スルーしてしまった。もう少し聞くべきだったのかもしれない。小説で書いただけのものだと思うが、確認をしておこう。
「でもこれ物語として出しただけなんですよね」
そう言ってみたら、加茂さんは横に振った。
「力のない普通の高校生が書いていたらの話です。著者は安部光彦と言い、陰陽師をやっている人なんです」
どこかで聞いたことのある名前だが思い出せない。ただ陰陽師と言っている辺り、かなりやばい気がする。
「安部光彦ですか!? それって日本支部の偉い人じゃないですか!」
アリスの台詞で思い出す。国際魔法保護委員会の日本支部長、安部光彦。陰陽師として現役バリバリだとかそういう話を聞く。その人が著者となると、確かに話がだいぶ変わってくる。
「ええ。だから可能性として一応あげているのです」
「なるほどー」
加茂さんは校舎内の地図を広げる。
「アリスさん、確か全てが同じ系統……イギリスの魔女のもので間違いないですか」
「はい。全ての線が1つの点に集まっているのも事実です。この地図だとこの辺りですね」
アリスは校舎の西側にある森の前辺りを指していた。涼みの森と書いている。昔からタイムカプセルを埋めたという話を聞く。まさかタイムカプセルとかと紛れ込んで今に至るなんてことはないと思いたい。
「あの魔法の構造を見てる限り、たぶん加茂さんの推測通り、7つめが出現してくるかもしれません」
確かあの時は1つに収束しているところに原因があると言っていたはずだ。細かい場所は分からないが、ここで自分の考えを伝えておこう。
「加茂さん、それと皆さんに確認しておきたいのですが」
「何でしょうか」
ここにいる同好会全員が口揃えて言った。仲が良い。
「涼みの森はタイムカプセルとか生徒の思い出を埋める場所でもあるんですよね」
「そうですね」
「紛れ込んでずっと放置っていう可能性あり得るよなーっと思うんですけど。どうでしょう」
加茂さんが納得した感じで言う。
「土の中にあってもおかしくないですね。安部光彦が学生だったころは見たことがあっても、放置していたか……あるいは条件が達成しきれていないから中途半端だったとか?」
魔法はかなり複雑だ。まだ学生となると、未熟な部分があってもおかしくない。イギリスの魔法がベースとなると、一部しか解決出来ていない可能性がある。仮に当時から強かったら、悪いとこだけ浄化できるケースもあるが、それに至るまでのキャリアが足りない気がする。
「或いは悪い部分だけ抽出して浄化した可能性もありますよ。俺の祖母も似たようなことをやっていました。ですが歳を考えると……可能性は低いでしょう」
同好会の1人が端にあるホワイトボードに書き込む。整理されているからか、とても考えやすい。
「まだ分からないところが多いですね。先週、涼みの森に行っておけば良かったです。昼間だと本当に大人しかったですし」
アリスがしょんぼりとしている。先週の夜の調査不足が気になったのかもしれない。過ぎたことに後悔しても仕方がない。
「一応最悪ケースに備えてはいるから大丈夫……だよな?」
「うん。Jessicaが夕方にこっちに来るから大丈夫だと思う」
例の竜殺しの異名を持つ女性が今日の夕方に来る。戦闘になっても問題はない。対策できるだけマシだと思う。
「疑問点はこんな感じです。何故日本のはずが、魔法の系統がイギリスなのか。個人的にそれが気になります」
浜田の台詞に同好会の仲間が縦に頷く。昔から富津野は戦争が突入する前から受け入れてきた歴史がある。いつ入って来てもおかしくはなかったのかもしれない。
「昔から富津野は海外の生徒を受け入れてきた歴史を持ちます。その辺りは不自然ではないでしょう」
言おうとしたら、先に加茂さんに言われてしまった。少し悔しい。
「どちらかと言いますと……何故やったのか。それが気になります」
推理小説でよく聞く「ホワイダニット」が出てきた。確かに気になるものだ。しかし情報がない状況では考察しようがない。それより俺はあれを気になっている。
「俺は何故発動したのかが気になっています。涼みの森に行った生徒はたくさんいるので、何か細かいことを見かけたかどうかを聞きました。ですが全員何も変わらないと言っていました。予兆もなしというのも妙だなと思うのですが」
「魔法が勝手に発動したという説は」
同好会所属の1人が手を挙げて言った。
「可能性はあり得ますね。ただ今週で解決する予定なので、分からないままになるでしょう」
アリスは静かに答えた。手元にスマホ。終わった後に写メする気満々である。
「あ。そうだ。これも書いとかないと。野口。パス」
「ほい」
浜田が手の動きで寄越せと表す。野口という男子生徒がぽいっとマーカーを投げ渡す。
「俺はこれですね」
慣れた感じでホワイトボードに書く。
「イギリスの魔法なのに、日本の七不思議が現象として現れたのか。確かにそうだよな。有名どころはネットに書いてあるけど、学校によってバラバラだ。偶然でピンポイントにここのが出て来る確率なんて低いし」
「とりあえずみんなで意見を言い合いましょう。野口さん。書記を頼みました」
5時になるまで論議しまくった。だいぶ濃かった。普段は考察なんてものはしないため、いつもより疲労したが、すっきりしたように思える。
「ありがとうございました」
「いつでも遊びに来いよー」
同好会全員にお礼を言って、オカルト研究同好会の部屋から出て行く。出た瞬間、アリスは廊下でスマホを操作している。スマホを鞄に入れ、アリスはとびっきりの笑顔であることを提案してきた。
「トオル、これからJessicaを迎えに行こう!」
ハードルが1つ飛び超えたと思ったら、もう1つあることを忘れていた。その笑顔でその提案は胃が痛くなりそうだ。不安しかないが、アリスがいるから大丈夫だと思いたい。
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