第12話 アリスと一緒に原宿へ
2回乗り換えして、東京の原宿に到着。竹下通りというところにいる。時間的に日差しが強くなり、気温が上がっているのもあって、とても暑い。
「アリス。大丈夫か」
慣れていないアリスに声をかけた。鞄から折り畳みの日傘を取り出して、広げていた。この季節でも熱中症になる。一応水分補給用に水筒もある。簡単な対策は出来ていると願いたい。
「うん。あ。そうだ。トオル。手を出して」
「うん?」
アリスの指示に従う。かざして何かを施したように思えた。少し涼しくなった気がした。
「よし。行こう!」
ここは原宿だ。女子の買い物に付き合う形になる。今更だが、訂正しておくべきだろう。案内するという言葉は正しくない。東京に行くのは5度目になると思うが、原宿は初めてである。女性がやたらと多い気がする。店がそういった感じのものが多いからだろう。
最初に入った店はアクセサリーを取り扱うところだった。男だから値段の相場は分からないが、多分安い方だろう。ちょっとだけ買って、次の店に行く。そこまで歩いた感じはない。カラフルだ。服と雑貨があると言った感じである。
「活発系じゃないから似合わないと思うんだけど……どうかな」
青色の前だけつばがある帽子を被ったアリスが言う。確かにこの店が扱っているものは元気そうな子が好むようなものだろう。そしてアリスの格好は水色主体のゆったり系のものだ。違和感があっても不思議ではない。ただ服装と合わないだけで、別のものなら問題はない。そう考えている。男だからこの感性が合っているかどうかは別だが。
「似合うよ」
「やっぱそう思う? よし! これに決めた!」
アリスは男の俺の意見を取り入れた。アテにならないと思うが、この辺りはどうなのだろうか。異性との付き合いがそこまでないから本当に分からない。必勝パターンがあるわけではない。手探りでいくしかないだろう。
「あとは似合う上の服を買っておこうっと」
黒色のパーカーを買っていた。即決だった。試着もして、アリスの格好を見てみたが、服が違うだけでだいぶ印象が変わってくるものだと思った。ファッションは凄い。男でも勉強するべきだろうか。
「トオル? 大丈夫?」
考え過ぎていたのか、アリスに心配させられていた。既に買ったものを袋に入れている状態だ。いつの間にか会計を済ませていたらしい。思考時間が相当なものだったのかもしれない。
「ちょっと考え事してただけだよ。それで次はどこに」
アリスの案内で次の店に向かう。世界でも有名なキャラクターものだった。男の俺が浮いている。視線が痛い。
「職場とか学校とか、結構欲しがってる人が多かったの」
「てことは……ここで土産を買う形なのか」
「うん」
アリスは肯定した。日本のキャラクターは強いなと感じた瞬間だった。流石に割れ物は買わなかったが、ペンやハンカチなど小物系を買った。大きい袋がパンパンである。その後も色々と買い物に付き合った。姉ちゃんみたいにガッツリってわけじゃなかったから、荷物持ちに関しては特に疲れることはなかったし、苦痛ではなかった。むしろ楽しかった。こういう感じは初めてだ。何故だろう。ずっと考えても仕方がないので放置するが。
「色々買ったな。というか大丈夫なのか」
両手塞がった状態だ。小さいものが多いから大丈夫だと思いたいが、念のためアリスに尋ねる。
「何が?」
「帰る時に入るのか?」
「そこら辺は大丈夫! 魔法で小細工するから!」
空間とかその他諸々弄って、土産物などを押し込む気だった。魔法って便利だなと思った。いま気付いたが、竹下通りじゃないところを歩いている。雰囲気がだいぶ違う。ここも原宿のはずだが、少し離れただけでこれだけ違うとは。
「アリス、これからどこに行くつもりだ?」
「行きたかったとこ。着いたよ」
レンガで出来た建物。喫茶店であることが分かる。中に入って分かる。古い時代、俺の勝手な推測になるが、大正時代とかその辺りを再現したようなものだろう。客層がやたらと高い。若い俺達がだいぶ目立つ。ちょうどランチタイムの時間帯ということもあり、ランチセットがおすすめに出されている。久しぶりにドリアでもいただく。
「はーい。ご注文は」
「ドリアをお願いします」
「私はナポリタンで」
てっきりアリスはサンドイッチ辺りを選択すると思っていたので意外だった。
「意外なチョイスをしたな」
「日本発祥って聞いてたし、ここの名物らしいから」
「なるほど」
日本は大体改造しちゃう。良くも悪くも。食に関してはどこの国でも色々と変えてはいるとは思うが、日本という国はマジでやりまくっている印象しかない。下手したら海外発祥だと思ったら、実は日本というパターンがいくつもある。アリスが興味を湧く気持ちは分かる。ここの店の定番がナポリタンとなると、頼むのもどおりという奴だ。
「去年だったかな。日本旅行に行ったTheresaがナポリタン美味しかったって言ってたから、仲良い子で作ってみたのよ」
難易度の高いものを挑戦するとは凄い。ナポリタンはシンプルなように見えて、ガチで美味しいものを作るとなると、ハードルが一気に上がる。俺も挑戦したが、挫折した。普通にやったはずなのに不味く感じた。原因は未だに分からない。
「パスタ料理だから大丈夫だって思ってたら……失敗しちゃったの。それでも楽しかったからいいんだけどね。でもあれからは一度もやってないかな。日本に行けるとは思わなかったから、チャンスは逃したくなくって」
ナポリタンは本当に難しい。雑に作ると味が変になる。楽しさの方が増していたから問題はなかったのかもしれないが、失敗したから挑戦する気にはならなかったようだ。それでも友達が美味しいと言った料理はいつか食べてみたいと思い続けていた。そしてその機会を狙っていた。そういうことなのだろう。こういう部分は旅行の醍醐味なのかもしれない。
「すっげえ分かる」
「でしょ!」
意見が合致すると気持ちが良い。高揚感とやらだろう。テンションがガン上がりである。まだ来なさそうなので、話を続けてもいいだろう。
「名物とか発祥とかそういうの弱いんだよな」
「そうなんだよね。私もだよ。デザートなんて特に」
流石は女子と言ったところか。デザートに目がない。富津野駅のあそこの店を選んでおいて良かった。
「だからここでも頼もうかなって」
「へー何頼むつもり?」
「プリンアラモード! 凄いよね! 色々と!」
メニューにある写真を見る。確かに色々と凄い。フルーツが盛り、アイスが盛り、何もかも盛りまくっている。ド派手な感じ。1人で食べ切れる自信がない。
「1人で行けるか。これ」
「うーん。多分無理かな。残しそう」
俺の見解は間違いではなかった。申し訳なさがにじみ出ている。解決方法は単純だ。一緒に食べれば良い。
「一緒に食べよう。美味そうだし」
「うん!」
ここで店の人が料理を持って来てくれていた。ドリアとナポリタンが同時とは思わなかったが。
「お待たせしました」
湯気が立っている。食器のセンスがいい。厳選したに違いない。
「あの。すみません」
アリスは一体何をするつもりだろうか。
「食後にプリンアラモードをお願いします」
そう言えば頼んでいなかった。
「あと小皿2つあると助かるのですが」
デザートを分けるための小皿も頼んでいた。
「小皿……ああ、そういうことですね。分かりました」
何故か店員は俺を見ながら言った。何か察したのだろうか。ただ既に向こうに行ってしまった。これ以上気にする必要もないし、食事を始めよう。
「いただきます。アリス?」
ドリアの上にナポリタンが少しあった。何故という気持ちしかない。
「ちょっとだけ交換しよ。そっちも美味しそう」
そういうことかと納得した。ドリアも日本発祥だった。アリスが知っているとも限らないが、美味しい見た目だと興味が出て来るものだろう。
「分かった。ちょっと待てよ」
これでいいだろう。見た目は滅茶苦茶になってしまっているが、チーズもあるし、ご飯もあるし、問題ないはずだ。
「ありがとー。うーん。美味しい!」
アリスが美味しそうに食べる。俺も口に入れる。流石ナポリタンを名物としているだけのことがある。バランスが絶妙だ。ドリアも良い感じだし、本当にアリスは良い所を選んだ。
「うっま」
食べながら気付いたが、買い物したり、一緒に食べたりするのは完全にカップルのデートそのものではないだろうか。いやいや。まだ付き合っているわけではない。約2週間限定の付き合いだし、ただの文化交流だと思いたい。とりあえず食事を楽しもう。滅多にない機会だと思うので。
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