第10話 放課後、ゲーセンで
夜の校舎の調査が終わり、土曜日を迎えた。公立の高校なら1日まるまる休みなのだが、私立の富津野高校は午前中だけ授業がある。俺は色々な情報を集めたりしていたが、アリスは休み時間に何処かに行っていた辺り、魔法に関する何かをしていたことは明白である。
「月曜日にオカルト研究同好会に行きたいの」
自由に動ける昼になった途端、アリスは俺の目の前に来て、そう発言した。いつかはそう来るだろうと予想していたので、オカルトのとこに行くこと自体に驚きはない。
「やっぱあそこ有名だもんな。やっぱ女子から」
「うん」
やはり女子メンツから聞いたらしい。比較的生徒が通る廊下にデカい看板を出しているから、誰でもオカルト研究同好会の活動日を把握している。
「とりあえず彼奴にアポ取っとくから月曜に行くか。今日はもうやることないんだろ」
「そうだね。プライベートでも特に予定はないかな」
アリスも昼から予定がないみたいだ。特に昼ごはんを持って来ているわけではない。家で食べる予定だったからだ。そして校則で放課後に立ち寄って食事をするなとかそういったものはない。一応小遣い制度はまだ生きているため、財布には金がある。
「よし。ちょっと富津野駅周辺で遊ぶか」
アリスが喜んでいたので、俺達はそのまま富津野駅に行った。昼ご飯に関しては……申し訳ないが、全国展開されている(それどころか海外にもある)ファーストフード店になってしまったが、これに関しては高校生なので許して欲しい。美味しそうに食べているアリスを見ると、良心が痛くなった。
「ねえ! あっちに行こうよ!」
食べ終わった後、すぐ近くにあるゲーセンで遊ぶ。ここまで喜ぶとは思わなかった。休日ということもあってか、人がたくさんいる。富津野高生以外の奴らが来たら面倒なことになりそう。慎重に動くべきかと考えていたら、アリスの姿が消えていた。
「いつの間に!?」
急いで探す。目立つ容姿なのですぐに見つかるはずだ。そのはずなのだが、近くにはいない。それならアリスは何処にいると、頭が真っ白になりかけた時だった。スマホに震えが発生した。SNSのチャットだ。アリスからだった。
『ジェーンが大変なの。使い魔を飛ばすからその子に付いてきて』
困惑している内に、足元に黒猫が来た。ゲーセンの中だと相当目立つはずなのだが、誰1人気にしていない。いや。見えていないのかもしれない。猫はついて来いとひと鳴きし、てくてくと歩く。何も分からない俺はそれに付いて行くしかなかった。
「あ。来た来た。こっちだよ」
休憩室のようなスペースの付近にアリスがいた。バレないように見ている感じだったので、俺はそれを真似する。
「Janeが大変で」
そーっと見てみる。うねった感じの腰まである金髪にたわわなお胸で美人な女子高生、確かにJaneだ。放課後1人で遊んでいた時に不良っぽい奴らに絡まれたと言ったところか。スタッフは滅多に通らないからか、気づいてはいない。スタッフを呼ぶしかないだろう。男3人の見た目が不良なだけで、常識ぐらいはあると思いたい。
「ちょっと待ってて。アリスはスタッフを呼んで欲しい。こういう時には頼っても問題はないし」
「分かった。行ってくる」
「Hey! Jane!」
というわけで俺はあの場に突っ込む。呼び終わった後、心配になったのか、アリスは魔法で見えづらくして待機している。流石にこの中で乱暴行為はしないはず……だと願いたい。
「ちっ。おい。さっさとずらかるぞ」
「けどよ。いいのか。あんな上玉滅多にいねえのに」
「いいから! 此奴はマズイんだよ!」
男の俺がいると分かったのか、不良っぽい奴らは舌打ちをして、どこかに行ってしまった。これで解決だとホッとした時、Janeに撫でられ始めていることに気付いた。弟のように扱っている気がしなくもない。
「アリガトウゴザイマース!」
この様子だと怪我はないとは思うのだが、念のため確認をやっておく。
「怪我ないですか」
これだと日本語だ。通じるかどうか。
「じゃなかった。えーっと」
「Jane! Are you ok!?」
いきなりアリスが現れたからか、Janeがびっくりしちゃっている。それも一瞬だった。ちょっと嬉しいなとかそういうものを通り越して、アリスに抱き着いてしまっている。凄い光景を見てしまった。
「あの大丈夫でしょうか」
ひょっこりと黒い制服を来たスタッフが来た。アリスが呼んできた人に違いない。
「ええ。恐らく大丈夫かと」
「すみません。私達の監視不足ですね。ありがとうございました」
スタッフは仕事に戻って行った。
「I’m ok」
スタッフと話していたので、全然分からなかった。英語で話していたぐらいしか分からない。何故かJaneが耳打ちっぽいことをした後、アリスの顔が赤くなっている。どういうことだろうか。
「See you again!」
その後、気を付けろよと思いながら、Janeを見送った。ちょっと気になることがあるとは言え、場所を考えてみる。
「プリクラのとこに戻ろう」
プリクラならそこまで聞かれないはずと思って、ちゃっちゃと両替して、空いている所に入った。設定よりもっと前の段階なので、このタイミングで聞いてみる。
「魔法は使わなかったんだな」
「うん。3人相手に精神干渉はちょっときつくて。もうちょっと力があれば、すぐに助けられたんだけどね。かと言って、トオルみたいに直接なんて出来ないし。情けないよね」
少し落ち込んでいるように見える。女性でなおかつ可愛いアリスが行ったら、悪化しかねないし、自分の身を危険に晒す事になってしまう。変に刺激をしない方が正解だと個人的に思う。自分の場合は不可抗力で出来てしまったコネで多少の脅しが出来る。あの感じだと効いていたみたいなので間違いはない。
「いや情けないとは思わないよ。冷静な判断だと思う。俺はちょっとしたコネがあって、色々と変に知られてるとこあるから……さっきにみたいに行けてたってだけで、力自体ないと多分……逃げていたと思う」
俺は普通の人間だ。絵を描くことが好きなただの高校生で、それ以外は何もない。だから漫画みたいに果敢になんて芸当はまず無理だ。カッコいい要素なんて何ひとつないのが事実である。
「そうかな? トオルはそういう感じじゃないんだよね」
アリスは初めてのはずのプリクラの機械を簡単に操作しながら言った。
「どういう」
「んー。出来ることをやるって感じ。そうじゃなかったら、私にスタッフ呼んでなんて言わないでしょ? 力はないとは思うんだけど、考えはカオルに似てるよ」
正直母さんとそういうとこ似ていると言われても複雑である。しゃがみ込んで、頭を抱えてしまう。
「そういう人の方が私は……ってちょっと!? トオル!? 大丈夫!?」
「おー……へーきへーき」
アリスが背中を擦ってくれる。嬉しいのだが、多分対処方法が何か違う。慌てて変なことをやってしまうのも可愛い。そろそろ立ち上がっておこう。写真撮影が始まる。
「せっかくだし、楽しんでやろうか。プリクラに慣れちゃってるところが気になるけど」
「え。イギリスにもあるし」
アリスはきょとんとした顔で答えた。普通にあった。プリクラは世界にもあった。衝撃をくらったから、体が動かせる気がしない。
「でもこういう形じゃないかな」
近い。体が密着している。心臓がバクバクである。
「ほら。ポーズ取って取って。ハートやろう。イエーイ!」
「い……いえーい?」
慣れない写真撮影でパニック状態の俺と慣れているアリス。酷い大差である。こちらが申し訳なくなる。
「こうでいいかな?」
「アリスがそういうポーズ知ってるとは思ってもみなかった」
色々と撮ったのだが、アリスが某有名な漫画のポーズをしていたり、
「盆踊りってこんな感じ?」
「そうだな。って今パシャリって音したんだけど!?」
知らない内に盆踊りみたいなポーズを撮られてたり、まあ何やかんやあって終わった。撮影した後、編集が始まる。
「うわー……ここまで弄るんだ」
見た目の編集でアリスはやや引いていた。日本人のはずの俺も正直この機能はいらないと思う。
「突っ込むな。その辺りは。流行りもあるし。多分だけど」
そういうこともあり、目を大きくしたり、肌の色の調整したりとかは特にしなかった。
「わーお絵かき出来るんだ!」
「全部やるか?」
選択した写真全てをアリスに任せてみるかと思ってそう言ったのだが、
「トオルもやるの!」
強く言われてしまったので、素直に従うしかない。
「……分かったよ。こっちやっとくよ」
「それなら私はこっちだね」
ちらちら見ながら、編集を行ったが、イギリス色(?)がだいぶ強かった。恐らく国旗のカラーリングだったからだろう。地味にシンプルな筆記体も強い。
「わーこういう感じなんだ」
編集後、フレームや絵などを付けた写真が印刷し、俺達の手に渡った。まさか女の子と一緒にプリクラで共同作業を行うとは思ってもみなかった。夢ではなく、現実というところに驚きだ。
「大事にするからね」
「俺もだ」
アリスの台詞に俺は同感だと思った。イギリスから来たアリスと過ごす短い青春の1枚としてかなり貴重だ。
「まだ時間あるし、回っていこう。どっから行く?」
「どうしようかな。色々あり過ぎて迷うよー」
だいぶ迷っているようなので、俺がリードしておこう。まずは俺個人が得意としている奴から行こう。その後は気になったものを挑戦してみるのもありだろう。
「こっちから行こうか」
今からは思い出として記憶に叩き込んでおこう。こういうとこで遊びまくるのも悪くないなと感じた。
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