第8話 アリスと一緒に体育館へ

 俺とアリスは校舎の右側にある体育館に来た。2階あるもので、室内競技の部活は大体そこでやっている。最初に1階でやっている部活の人に話を聞く。天井が低めで広々としたところでダンス部と卓球部が活動中である。


「Hey! Alice!」


 日に焼けた肌色の活発そうなグレンズガーデン女子生徒がアリスに元気よく話しかけてきた。緑色で染めた短髪を見て、かなり自由なところだと分かる。富津野高校と大違いである。


「美術部の上代でいいのかな」


 アポなしで聞きに行くのはマズイと思い、同学年の知り合いを通して、部長に許可をもらってきている。黒髪のショートヘアの女の先輩が部長である。


「ええ。上代と言います。お忙しい中、協力してくださってありがとうございます」


「ダンス部部長の田名部だ。ずっとあのままだとマズイだろうしね。練習時間に見かけないだけマシっちゃマシなんだけど。怖いのは変わりないし、免疫のないハンナは悲鳴あげまくってたよ」


 海外と日本のホラー文化に差がある。動画でも日本で有名なホラーゲームをやっている海外の人が絶叫していたのを見たことがある。来日して早々ホラー展開は相当怖かったはずだ。というか現に英語でアリスにそう伝えている。


「もう少し細かく教えて頂けると」


「簡単に言うと幽霊だね」


 本当に田名部さんは簡単に言った。おもわず復唱してしまう。


「幽霊」


「そう。ここと2階と別種っぽいんだよね。バスケ部とかにも聞くんでしょ?」


 同じ体育館でも見かけたものが違うとはどういうことだろうと思いながら、部長の質問に答える。


「はい。聞きに行くことを知らせています」


「よし。ああ。そうだ。グレンズガーデンのジョージに気を付けた方がいいよ」


 その辺りは何となく察してはいた。昨日、アリスが話してくれたことを思い出す。だいぶ濃いオカルトマニアだと思った。


「彼奴オカルトマニアだから」


 田名部さんでさえそういう認識だった。


「アリスから聞いています」


 卓球部に聞いていたアリスがこっちに来た。調査が終わったみたいだ。友達のハンナと一緒だ。


「それでは俺達、2階の方に行ってきます。協力してくださってありがとうございました」


「がんばりー」


 田名部さんとハンナさんに見送られて、俺とアリスは2階に移動した。ボールの音と走る音が耳に届く。バレーボール部とバスケットボール部とバトミントン部がいるところだ。身長がひときわあるグレンズガーデンの男子生徒っぽい奴がダンクを決めていた。アリスの言うGeorgeなのだとすぐに分かった。


「お。来た来た」


「いきなりパスすんな!?」


 俺達を見つけたのか、黒髪を刈り上げているイケメンがさらっと後ろの味方にボールを投げて渡した。驚きながらもボールを受け取っている辺り流石である。


「メンバーチェンジ! 澤村入れ! 神崎行ってこい」


「分かりました!」


 顧問の鷲尾の大声が体育館に響く。もうちょっと下げて欲しいなと思うが、他のみんなは慣れているのか、特に表情を変えていない。神崎というイケメンが近づいてきた。


「初めましてだね。神崎翔太だ。よろしく」


「上代透です。こちらが」


「アリス・ホワイトと言います」


 自己紹介が終わって、練習の邪魔にならないように体育館の舞台の裏に移動。電灯があるおかげで暗くない。


「George. Why are you here?」


 確かになと思った。しれっとGeorgeらしい人もいた。興奮気味なのか、頬が赤い。バスケ部にいると知って、嫌な感じは薄々していたが、やはり神崎部長と意気投合してしまったのか。そう感じてしまった。そこまで日にち経っていないはずなのにハイタッチしている辺りが。


「I bring this. Mr washio said “ kore dozo”」


 自販機で売られているお茶のペットボトルだ。少しずつ暑くなってきている今、水分補給も大事になっている。ありがたく受け取る。


「サンキュー。ジョージ。アフタークラブ活動、レッツ トーキング アバウト 怪談。キャン?」


 神崎部長が英語を話す。それはいいのだが、何故か日本語が混ざっている。それで通じるのだろうか。いやあの様子だと問題なく、疎通出来ている。


「Off course. Bye」


 Georgeが嬉しそうに練習に戻った。アリスに小声で忠告しておこう。手招きをして、アリスの耳元に話す。


「Georgeと神崎さんの仲を聞かないでおこう」


 神崎さんのことを知らないアリスは傾げている。


「え。何で」


「話がずれて時間が長引くかもしれないから」


 一応計画は立てているし、順調にやっておきたい。アリスは俺の気持ちを汲んでくれた。


「分かった。聞かないでおくよ」


「助かる」


 神崎さんはイケメンで成績優秀でスポーツ万能で性格が明るめと、モテる要素はたくさんある。そのはずなのだが、オカルト大好きで変人という部分が女子にあまり受けないのか、彼女がいると聞いた事がない。慎重にやっていかないとマズイ。マニアの火を付けないようにしたい。


「えーっと。さきに田名部さんから聞いたんだよね」


 神崎さんから話が始まった。こっちでこそこそと喋っていたからだ。


「はい。1階にも2階にも出てきたとお聞きしています。それと別のものだとも」


「うん。何でかスマホで撮れたから田名部さんに見せたらそう言っててね」


 神崎さんが撮ったものを見せてくれた。ボロボロの上下の服を来た男の幽霊。陰でバトミントンの試合を見ている形だ。


「時間は18時ちょっと経ったぐらいだよ。最初は見学者かなと思っていたんだけど、時間帯を考えると不自然でね。念のため鷲尾先生に聞いてみたら、そういう話を聞いてないって言ってて。その後が大パニックだったかな。俺としちゃよっしゃ的なところはあるんだけど」


 そうだろうなと思った。例え幽霊とかが好きでも力がなかったら、見ることが出来ない。それが実現したのだから喜ぶに決まっている。


「色々と話し合って、早めに部活動を切り上げるように命じられたよ。インターハイの予選あるってのにこれはないって部員たちが言ってるし、早めの解決を頼むよ」


 安全のことを考えるとそうなるだろう。ただインターハイの予選がボチボチ始まっている。練習量が減らされるのは痛手だ。


「何か気付いた点があったら教えてくれると助かります」


 神崎さんは考え込む。数秒どころか1分経ちそうだ。


「なーんか引っ掛かるんだよね。うーん」


 引っ掛かるとは何だろうと俺も考えてみるが、何が何だかさっぱりだ。


「見た目は違うっちゃ違うんだけどさ。なーんか同世代って感じするんだよね。大した手掛かりじゃなくて申し訳ないけど」


 スマホで見た幽霊の見た目は学生に近かった。……学生に近い? 神崎さんに確認をしよう。


「そう言えば富津野高校って戦前よりもっと前からあったんですよね」


「だね。そんでこの体育館の辺りが学び舎だったらし……うっそだろ?」


 俺達は生徒だった故、考えが合致した。一方のアリスは目を点にして、口を開けている。流石に留学生だと分からないところだ。


「でも幽霊だったら、俺でも見えてたはずなんですよね」


「あー……そう言えばそうだったね。いーな」


 地縛霊や浄化出来ない説も考えられるが、それなら入学から俺の目に映っていたはずだ。可能性としてまずあり得ない。あとさり気なく神崎さんが羨ましがっているのはスルーしておこう。


「えーっとお楽しみ中、失礼します。こちらでも細かく調べておきます。形跡や系統が分かったら、回収出来ますので」


アリスがそーっと手をあげて言った。こういうときの本職の言葉は頼もしい。


「ただ何ヶ所もあるみたいなので、数時間で終わる保証はありませんが」


 起きている現象の場所の距離が離れていることを踏まえると、時間がかかってしまう可能性は十分にあり得る。その辺りは夜の校舎でやるしかない。


「遅い時間帯でも校舎に残るわけだね」


 神崎さんは頭が良いからか、調査に関しては何となく察していたようだ。


「上代君、羨ましい。詳しい話は後日ってことでいいかな?」


神崎さんは何故俺がアリスと一緒に夜の校舎に行く前提になっているのだろうか。そう思ったが、ただ単に話を聞きたいだけだった。


「期待しないでください。それで……その他に何か情報があれば教えて頂けると助かるんですが」


 強引に話を進めておこう。アリスが魔法を使ってくれるおかげで、神崎さんがそこまで興奮していない。だいぶ進行が楽だ。


「これ以上はないかな。うん。流石に俺も練習に戻っておこう」


 キリが良いということで調査は終了。思ったより楽に終わった。拍子抜けというかなんというか。ただそれはアリスが魔法を使ってくれたからだ。一緒に帰る時にお礼を言っておこう。あとは色々と遠出の準備が出来ればいいのだが。

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