43 たき火
星空の下、たき火の炎だけが揺れていた。
その周囲にいる誰もが動かず、口も利かない。まるで精巧に作られた像のように座っているだけだ。
ややあって、動く者・立花僚が火のついた松明を片手に現れ、それで魔法が解けたようにたき火に当たっていた一人、源白夜は身じろぎした。
「それで」短い質問に、立花は首を振る。
「……ここらの生き物はみんな死んだ……怪物も、動物も、ただ死体だけが転がっている」
うう、と憔悴しきった片倉が再び顔を両手で覆う。
「斉藤……まさか、レイスティンとは」
その名はいつか准から聞いていた。
古代魔法帝国を滅ぼし、この地に死の冬をもたらした神に見放された者。
何故かそんな奴の魂が斉藤の体を乗っ取ったのだ。
「あいつ、ずっと自分が戦いで無力だと悩んでいたからな」
今まで動かなかったたき火の近くの人物、本田が呟く。
「そんなのどうでもよかったのにね」
真田亜由美子の台詞に、きっと片倉は顔を上げる。
「どうでもよかった? 和樹がいなかったらみんなここで死んでいたんだよ! 終わっていたんだよ、ここだけじゃない! 和樹はいつも自分を犠牲にしてみんなを助けてくれてた、みんながこにいられるのは和樹がいてくれたからなんだ!」
沈黙が再び支配する。
その通りなのだ。彼等はリーダーたる徳川准の死により自失し、絶体絶命の窮地に陥っていたのだ。あれだけの怪物に襲われかけてたのに、動いたのは斉藤だけだった。
……徳川……やっぱりみんなお前頼りだったんだよ。
白夜はつい数時間前に土の中に埋めた、葬ることとができた徳川准の笑顔を思い出し、かつて交わした会話も蘇る。
「……リーダー、誰にする?」
彼等には新しい指導者、場を締める者が必要だった。それについて准と言葉を交わしたことがある。
「本田君でいいんじゃないかな」
「嫌だよ、石田。俺にリーダーは向かない」
「何で? 君は強いだろ」
「俺は一番に突撃する係だ。リーダーってのは、もっと後方から全体を見なければならないんだよ」
「うーん」石田が顎を下げる。
「……そうね」平深紅の死からしばらくぼんやりしていた北条青藍が、久しぶりに口を利いた。
「なら僕がやるよ」踊る火を見ながら何でもないように白夜が告げる。
「白夜ちゃんが?」
「だめってんなら、別にいいよ、朧」
「ううん、ごめんなさい。そうじゃなくて意外だったから」
「そうだな」白夜は認めた。今までの引っ込み思案と、何もかも誰かにおっかぶせていた他力本願を。
「だけど誰もやらないな僕がやる……死んでいった仲間達の為に封印とやらをしてみせる……それがあいつらへの供養だ」
「わかった、アンタに任せる。頼んだよ、源」
小西歌が真面目な顔をするのを、白夜は始めて目にした。
「じゃあ、夜が明けたら進もう……もうガルベシアの城塞跡は近いだろうし、何より僕等を脅かす怪物もいない」
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