41 覚醒

 斉藤和樹もまた徳川准の死に激しい衝撃を受けていた。

 准だけではない、平深紅、嶋亘……野々村秀直、木村智、笹野麻琴。

 斉藤は三年四組で学んでいた時、彼等と親しかったわけではない。むしろ、ほとんど口を利かなかった、

 同じ教室にいながら、別の世界に隔てられているとさえ感じていた。

 つまり斉藤和樹にとって殆どの級友はただの他人だ。

 道ですれ違うだけの人と同じだ。

 その筈だった。

 しかし最初の犠牲者・野々村秀直が出て、彼の心は大きく揺らいだ。木村智が死んだ時には、いつか彼からバスケットの授業でボールをパスされたことを思い出した。笹野麻琴からは下手すぎて黒咲等にバカにされたバレーボールの試合の後、スパイクの打ち方を丁寧に教えて貰った。

 ……何より。

 斉藤は傍らで固まっている片倉美穂を見つめる。

 彼女はいつも味方だった。

 小学校四年生から同じクラス、との幼馴染みとも言い難い不思議な縁だったが、片倉は堀や脇坂に狙われる斉藤をいつも庇ってくれた。

 女子カーストトップの磯部水緒らに刃向かって辛辣に傷つけられても。

 斉藤は誰もが身動きしない間、馬が逃げ去った馬車のワゴン部分に飛び乗った。

 オーク、オーガー、ゴブリン、ワージャッカルが幾重にも彼等を囲んでいた。そして遠から迫るサイクロプス、空にはドラゴン。

 どうあってもこの状況を打破出来る術はない。

 たった一つを除いて。

『彼』だ。

『彼』大魔道士レイスティンとの出会いは、黒ローブの変な奴に連れられた死霊の道のどこかだった。

 どんな罰か名すら記されない墓の下で、『彼』は歯ぎしりしながら待っていた。

 何千年もだ。

 レイスティンは新たな肉体を欲していた。さらなる魔道の探求のために、だ。 

 斉藤和樹がそれを了承したのは、黒ローブに騙されたのもあるが彼女、片倉美穂の為だ。 あの谷での出来事が片倉の上に起きたら……そう考えるだけで斉藤の体は震え、心は凍えた。

 あるいは本田や平や黒咲みたいに状況をどうにか出来る力があったら、そうはならなかったかもしれない。

 斉藤和樹は無力だった。

 クラスはモンクであり魔法は使えないし、素手の喧嘩なんか出来なかった。戦闘が上手い訳がない。

 斉藤は彼なりに必死に役に立とうとした。結果、皆の足を引っ張り黒咲達に軽蔑された。

 弱いだけの自分は、もううんざりだった。 

 異世界に来てまでも片倉に庇われる日々も。

 故に大魔道士の力を欲し、エルヴィデスの戦場で無謀に突撃する仲間達を救った。

 ただ救いたかったのだ。ただただ仲間をみんなを救いたかった。

 斉藤は改めて周囲を見回す。

 怪物達の目はぎらついていた。

 確実な勝利と残忍な殺戮の喜びに満ちていた。

 斉藤和樹は決意する。

 ずっとずっと彼に囁かれていた誘い。ずっとずっと耐えてきた誘惑に、乗るのだ。

 仲間と彼女のために。

 斉藤は旋回するドラゴンを睨んで、大声で呼んだ。

「レイスティン! レイスティン、いるんだろ? 聞いているんだろ? お前の言うとおりにする! この体はお前の物だ。だから助けてくれ! 僕の大事な仲間を!」

 

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