34 無力感

 准の予測通り、馬が走り出すとそこら中から奇怪な叫び声があがった。

 いつの間にか包囲されかけていたようだ。

 間一髪の脱出。しかし准の胸中はぐちゃぐちゃだった。

 ……僕はまたミスしてしまった。また仲間を死なせてしまった。どうしてあんなに呑気に長い時間休んでいたんだ! 僕は何てダメなんだ!

 だが彼等には自己嫌悪に陥っている時間もない。幾多の怪物達が群れを成して背後から迫っていた。

 目の前に突然吊り橋が現れたのは、しばらく走り続けた後だった。

 馬車も何とか通れる大きな吊り橋だが、どのくらい放置されていたのか判らない。

 しかし彼等に止まって調べている時間はなかった。

 深紅と白夜の馬がまず橋を渡り、その後に馬車と仲間の馬が続いた。

 吊り橋を渡り終えた准は、馬車を急停車させた。鞭が痛かったのか馬が大きくいななく。

 だれもが目の前の光景に立ち止まっていた。

 前方に現れたオークの一団。後ろからはオーガーやワージャッカル達。

 完全に挟まれていた。

「俺達が背後の連中を何とかする」

 平深紅の声は落ち着いていた。

「そうだな、後ろの奴らの方が怖い」

 源白夜もだ。

「なら私が援護するわ、まだ魔法はつかえないけれど」

 馬から降りる彼等に北条青嵐がメイスを取り出す。

「徳川、小早川や力角達とオークどもを頼む」

 准は何も答えられなかった。恐らく彼等の判断は正しい。

 前後を挟まれたら戦力を敢えて分断させそれぞれ受け持つ。

 だが徳川准は俯き、全身から力が抜けるのを感じていた。

 無力感。

 あまりにも圧倒的なそれが彼の上にあった。

 仲間の島を葬る事もできず敵の中で立ち往生をしている。准は自分の限界を悟った。


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