30 戦いの道
「小早川! 後ろはどうなっている?」
馬車の御者となり手綱を握っている徳川准が振り向かずに小早川倫太郎に怒鳴った。
「まだ追いかけてくる! スゲー数だ」
ち、と准は舌打ちした。エルヴィデスを出立して五日、もう三年四組の一行は大量の怪物に追われていた。
馬に乗ったオークとジャッカルと化す人間・ワージャッカルである。
オークは馬に乗る分早く、ワージャッカル達も底なしの体力と敏捷性で一行の馬車と軍馬を追いかけてきていた。
「シャーニナ陛下に馬と馬車を貰って正解だったな」
小早川は弓の用意をしながら、共に乗ってる力角拓也と明智明日香に話しかける。
「……そうね」
緊張に固まっている力角はともなく、明智の返事は弱々しかった。
彼女は体の調子を崩しているのだ。だから用意された軍馬を放して馬車に同乗している。「やはり迎え撃った方がよくないか?」
軍馬に跨る深紅が准に叫ぶ。
「いや、ここは逃げの一手だ、キリがなさ過ぎる」
そう、キリがない。何せエルヴィデスからガルベシアへの行路を取り、荒れ果てた道に入った途端彼等は怪物達の襲撃を受け、かなりの時間戦ってしまったのだ。
途方もない数に離脱の決意をしたが、准は悔やんでいる。
……魔法も体力もあそこでかなり使ってしまった……僕はバカだ、もっと早く決断していれば。
准は習ったばかりの手綱さばきで何とか馬車を操っていた。
「しかし、このままだと馬も持たない」
深紅の反対を走る白夜が、息が切れだした馬の首を撫でつつ、案を出す。
「先頭の馬に乗ったオーク、五匹ほどのあれだけでも何とかならないか?」
「うーん」准がちらりと振り返ると、幌付きの馬車の中で小早川が自信に満ちた笑みを浮かべていた。
「……出来るか小早川、それに成田」
成田隼人はクロスボウを取り出し、馬を疾走させながら背後を振り返る。
「何とか……てか、やるしかないよなー」
「判った、狙いはオークだ」
小早川と成田はクロスボウで場所のオークを狙った。
びゅんびゅんとクロスボウのボルトが発射される音が鳴り、二匹のオークが馬から転がり落ちる。
「よし、後三匹、あと三発」
が、小早川は一匹仕留めたが、成田は一度外す。
「あー、ちくしょう」
成田は馬の背で罵ると、クロスボウの上部レバーを引いてボルトを装着する。
次の一撃は両者とも命中させ、馬で追うオークはいなくなった。ただまだワージャッカルは諦めていないようだ。
「魔法だ、炎の魔法を使えるか?」
「任せてくれ」准の指示に即座に反応したのは石田宗親だった。彼はこの世界で魔法の才能を開花させたらしく、成長も呪文の詠唱も最も早い。
「あれも一応動物だ、火は怖いはず」
石田はもう准の補足を聞いて折らず、精神を集中してぶつぶつと呪文を唱えていた。馬の上でそれをやっている彼は確かに魔法の才能に恵まれている。
ややあって石田の頭上に炎の輪が浮かぶ。
「ファイアブラスト!」
いつだっかゾンビ達を一掃した凄まじい炎の魔法だ。
今回もワージャッカル達を数体炭にし、彼等は「きゃん」と犬のように鳴き周囲に散らばっていった。
何とか追跡する怪物を退散させた。
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