29 近づく『その時』
「アークロードの力らしいです」
准が思い出すのは赤い髪のエルフだ。三年四組の為に命を落とした……エレクトラ。
……黒の騎士アークロードが魔物の軍勢を連れて世界を征服しようとしています。
「だから僕達はアークロードを封印するための旅をしているんです」
ラスタルの目が翳った。
「それは決して安楽な道ではない……わしが知る封印の名があるのは北のガルベシアの城塞跡じゃ……ガルベシアの封印と呼ばれている」
「ガルベシアの城塞跡……ガルベシアの封印……」
「もう一度言う、安楽ではない。あそこも今や混沌の者の巣窟じゃ。足を踏み入れて帰ってきた者はいない」
そうですか、と准は沈んだ声を出す。ならばもう少し訓練を、と彼は考えたが、ラスタルはそれを読み首を振る。
「先刻言ったはずじゃ。この地には死の冬があると。ガルベシアの城塞跡は死の冬の間はまさしく地獄。どんな装備をしていっても凍えて死ぬじゃろう、ここで時を稼げばすぐに冬になる、さすれば次の年まで身動きが取れないじゃろう……本来ガルベシアの城塞跡がある辺りも我が国の領土。このエルス王国は死の冬がなければ今の何倍もの領土を誇る国なのじゃ。じゃがガルベシアの魔物達は強く、死の冬は何もかもを死の世界に変える」
准は愕然とした。旅の終わりに想像を絶する試練が立ち塞がったのだ。
彼は賢者ラスタルの執務室を辞すると、そのまま三年四組を招集してガルベシアの城塞跡と死の冬について話した。
「迷う必要はないだろ」
平深紅が断じた。
「そこに行くしか俺達が自分の世界に帰れる方法はない」
「危険かも知れないけど、今までみんなでやって来たんだ。今度も何とかなるよ」
小早川も軽い口調で頷く。
「で、封印とは何だい?」
気の早い白夜の質問に、准はラスタルから聞いたまま答えた。
「よく分からない物だそうだ、ただ、確実なのはこの世界の者には手を出せない」
「僕達選ばれし者だけが操れるんだね?」
嶋はうれしそうに続ける。
「それを使えばこの世界は平和になって住みやすくなる」
「住みやすい~? らららはもううんざりだよ、ここ。臭いし汚いし疲れるし。徳川、ちゃっちゃっとガルなんちゃらにいこうよ~」
「行くしかなさそうね」
物憂げに青藍が呟き、准も決めた。
ガルベシアの城塞跡への道を。
運命の時は近づく……否、彼等が運命に飛びこんでいこうとしているのだ。
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