転移勇者、終わってる

VAN

第0話 既知外

 目覚めるとそこはあたり一面、真っ白で音もなく静かな空間にいた。ここにいるのはんだ空気と成人男性一人のみである。


 『ようこそ、神々の間へ』


 質からして女性だ。その声はどこからともなく聞こえてくる。まるで脳内に直接話しかけてくるように。だが姿形は見当たらない。


 「誰ですか?」


 成人男性はその不思議な現象に問いかけた。


 『私はあなた達の世界で言う神です。正確にはこの世の管理者と言ってもいいでしょう。』


 「それで何なんですか?俺は何でここにいるんですか?わかりやすく説明してください。神様なんだからそれくらいできるでしょう?」


 成人男性は活舌かつぜつの悪い早口で答えた。


 『(キモ)・・・ゴホン、では単刀直入たんとうちょくにゅうに言うとあなたは死にました。そこであなたには今、地球で新たな生命としてするか、若いので別の世界にして第2の人生を歩むかの2つの選択肢があります。』


 神様は成人男性の要望とおり、簡潔にわかりやすい説明をゆっくりした。


 「長ったらしくて面倒くさかったけど分かった。で?今決めればいいの?だとしたらそれはちょっと僕に不利益じゃないかな?そこらへんさ、ちゃんとしないとこれからの君のキャリアに響くよ?」


 またしても活舌かつぜつの悪い早口である。

 神様は落ち着くために、一度深呼吸をした。


 『・・・も、もちろん今すぐ決めろとは言いません。ほとんどの方はだいたい2~3日かけて決めたりしていますので。また、考える際はこの神の世界での滞在が許されますので生活には困らないはずです。』


 「ふーん、そういうの早く言ってくれないと。」


 神様は深呼吸しんこきゅうをした。吸って吐いて、吸って吐いてを計2回ほど。時間にして約5秒ほどだろうか。


 『それではお決まりでしたら私にお申し付けください。いつでもここにいますので。』


 「あ、じゃあをの方で。」


 成人男性は即答だった。


 『あの・・・よろしいのですか?ほかの皆様方はよくお考えになりますし・・・あと大半の方は地球での転生選ばれますが?』


 「え、じゃあなおさらだね。」


 『えっと、本当によろしいのですか?』


 「え、なにダメなの?選ばせてるの君たちだよね?選んでいいって言われたから俺は選んだんだけど。え?最初から選択権せんたくけんなかったの?だとしたら君たち神様名乗らない方がいいよ、本当に。」


 成人男性は気づいていないが神様の声はだんだんと震え始めている。それはいったい何から来るものなのか誰も知ることはなかった。


 『だっ・・・大丈夫でございます。お客様自身が選んだ道ですから私たちはその決断に茶々をいれるつもりはありませんよ。』


 「ふーん、だよね。じゃあさぁ、言葉遣いは気をつけようね。自分で神様とか名乗ってるんだからそれなりに頑張らないとね。よかったね、相手が俺で。」


 『ちっ(小声)・・・ええ、ご指導ありがとうございます。』


 「え、今まさかだけど舌打ちしたよね?え、舌打ちしたよね??」


 舌打ちについて追及する成人男性の足元には赤く光る線が張り巡らされた。まるでそれは魔法陣そのものである。


 『それでは転移を開始します、第2の人生をどうぞお楽しみくださぁい!!』


 まるで夢の国のキャストのようにテンションが高い神様は半ば強引にこの場を終わらせに来た。


 「てかちょっと待って、その転移について詳しく聞いてないんだけど?どの世界に転移するの?それも説明しないとか神様としてどうなm・・・」


 その時にはもう遅かった。成人男性の足元は魔法陣に吸い込まれていく。それもものすごいスピードで。


 『お゛楽しみくださぁいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!』


 こうして男は魔法陣へと体ごと取り込まれ跡形もなく消えていった。


 『・・・私もまだまだね。』


 神様は正直やつれた。


 また、この面倒くさい成人男性を相手にした神様は1から接客を学びなおし、神の世界業績エースに昇りつめたのはまた別のお話・・・


 

 


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転移勇者、終わってる VAN @loldob

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