約束された勝利2 ~と、一つのお願い事

「さっきも言ったが俺が説明するのは緒薔薇の計画の一端だけ。今日、ここに来ている全員を殺そうとしているのはお見通しだが、全貌を明かす気はないからそのつもりで」


「そ。続けて」


「まず第一のターゲットとして俺が選ばれたわけだが……いや、選ばれたというのは語弊があるな。正確には誰でも良かったわけだし……くじでハズレを引かされたと表現した方が的確だな」


「……………………」


「肝心のくじ引き方法だが……それは夜、俺らがどんちゃん騒ぎしてた時に緒薔薇が用意してくれたワインだ。人数分用意してくれたワイングラスの中に一つだけ、遅効性の睡眠薬が混入されていた。そいつを手に取った人物が第一の被害者になるわけで、つまりは俺ってことになる……どうだ? 当たってるか?」


「…………驚いた。あなた本当に予知能力を有しているの?」



 感心するような声を上げた緒薔薇に「さあ」と俺がはぐらかすと、彼女はクスっと口元を押さえる。



「そこまで寸分違わず言い当てられたら私もさすがにお手上げだわ……ただ一つ、疑問があるのだけれど……確かに私はこの目で達敏君がワインを飲むところを見たのだけれど、あれは見間違いだったのかしら?」


「ずっと注視されていたからな、飲む振りも慎重に行ったよ。と言っても、少量を口に含んで喉を動かしただけだけどな。監視の目がすぐに外れてくれて助かったよ」


「絶対的優位の立場が慢心を生んだようね。万が一にも見破られることはないと」


「誰がやったって結果は同じだったはずだよ。見抜くのはまず不可能だ」


「それを可能にしたあなたが言うのだから腹立たしいことこの上ないわね、まったく」



 ため息交じりにそう零した緒薔薇は、手に持った刃物をベッドの上に放り捨てることで降参の意を表した。


 ここでようやく一息。俺は点灯スイッチを入れ、明るい室内で改めて緒薔薇を見やる。


 鎖骨の辺りまで伸びた艶のある黒髪とは反対に、肌は雪のように白い。


 黒のワンピースを身を包んでいることもあってその風体はまさに魔女、美しいったらありゃしない。


 基本的に人が殺したくて仕方がないサイコな彼女はフィクションなだけあって見た目が一級品。だが、可愛いだけじゃ推しとまではいかない。事実、本編をクリアしただけの段階では別のヒロインを推していたし。


 評価が変わったと言うと少々上から目線になるが、サイドストーリーで語られた緒薔薇の日常を知って彼女を好きになった。


 本編では血を見て喜んでいた彼女だが、私生活だとおっちょこちょいで料理が爆破実験になったり浴槽の栓をしないでお風呂を沸かしたり。その失敗に落ち込んだりとお茶目な一面があって、気付けば俺の心は鷲掴みにされていた。


 ギャップの破壊力がすさまじかったのだ。反則のレベルまである。



「それで、達敏君の願いとはなにかしら?」


「ああ、そうだったな……」



 小首を傾げて訊ねてきた緒薔薇に、俺は一拍間をおいてから願いを口にした。




「人殺しとかそういう物騒なのはやめて――俺とラブコメしない?」

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