殺人未遂

「ごめんね、達敏君。あなたに恨みはないし、殺される理由もないのだけれど、今から私の好奇心の犠牲になってもらうわ。呪うなら自分の運のなさを呪ってね?」



 清々しいまでに手前勝手な彼女は口の端を歪めた不気味な笑みを浮かべている。



「もっとも、意識があればの話だけども。スヤスヤと呑気に夢の中な達敏君は何が起こったかもわからず二度と目を覚ますことはない。可哀想だけど仕方ないわよね? ハズレを引いてしまったあなたの責任でもあるのだから」



 一歩、また一歩とおもむろに近づいてくる緒薔薇の目はまだ暗闇に慣れていないのだろう。口振りからして俺が寝ているもんだと思っているようだ。


 つまり、上手いこと坂之上を騙せたと。


 俺は闇に紛れて口角を上げる。


 このゲーム、【そして誰も……】はエンディングが多数用意されている。その大半を占めているのがバットエンドで、すなわち選択を求められる場面が豊富にあるということだ。フローチャート図にして視ればその膨大さは嫌でもわかる。


 そしてなにより特徴的なのが第一の分岐がランダムで選択されることで、第一の被害者が誰かによってルートが変わる点だ。


 斬新なシステムと捉えるかプレイヤーに苦を与える不親切と捉えるかは個々によりけりであり、気にするとこではない。


 俺にとって重要だったのは第一の被害者に必ず自分が選ばれること且つ殺されないこと。二つを実現させるのなんぞ既プレイヤーの俺にとって容易い。坂之上の殺害方法及び過程を把握していれば未然に防げる。



「さようなら――達敏君」



 つまり、緒薔薇を上手く騙せたと。俺の思い描いた通りにことが進んだと、そういうわけだ。



「――――――ッ」


「なんでッ⁉ どうして起きてるのッ」



 心臓めがけて振り下ろされた切っ先を俺は瞬時に横に転がって回避。すかさずベッドから降り、緒薔薇との間合いを取った。


 我ながら完璧すぎて自分に酔ってしまいそうだが、自惚れはよくない。なんせここまでは前哨戦にすぎないのだから。


 本番はここから。推しである〝愛狂〟たっぷりの彼女を如何にしてラブコメルートに誘導するか……腕の見せどころだ。

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