タコさんウィンナーの焼きそば弁当

1

 優しい香りに誘われるように意識が浮上する。


 あれ、なんだっけ…この香り、なんだか懐かしいような…しあわせなような…


 ドンッ


 「グハッ!」


 朝のしあわせを予感させるひとときは、腹に受けた衝撃であっさり打ち破られた。


 「青さんっ!」


 「ちょ、」


 衝撃のあまり固まるオレの腹に、小柄とはいえ高校生ほどには成長した少年がのっかっていた。


 「遅れますよ! きょう、休日出勤だって、いってましたよね!」

 「ちょ、近いっ、」

 少年がそうオレの鼻先まで身をのりだしてきたところで、セットしていた目覚ましが鳴った。




 きのうの目玉焼きは、きょうはスクランブルエッグに変身だ。

 ほんのりほかほか半熟で、トマトケチャップが添えられている。

 ソーセージはほどよく焦げめがついて、きれいに入れられたスリットがぱっかり開いている。

 それらが洗いたてのサニーレタスとつつけば弾けそうなプルプルプチトマトと真っ白い皿にのっかっている様がなんだか清々しくて、夏の朝によく似合っていた。




 きのう母親の見舞いから帰ると、半ば成りゆきで決まった新しいルームメイト…博士くんは宣言通り新逗子駅近くのスーパーで、持って帰ってこれる限りの食材を買い込んできていた。


 「きょう、夜はあっさり素麺にしましょう?」

 当たり前のように提案してくる博士くんに曖昧に頷く。


 え? いや、なんだってこの子は夕飯つくる気満々なんだ? 別々に済ませればいいんじゃないか? あ、きのうの買い物代をまだ払ってないな、しまった。

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