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 淡い灯りに照らされたオーナーの笑みが一瞬、痛そうに歪むのに、気がつかないふりをする。


 「そうだよ。青は、…ロウも、」


 霖くんにしきりに食べるようにすすめているロウも、耳だけはこちらを向いている。


 「大切なうちの、『常連さん』なんだよ」


 「……そうなんだ、ステキですね」

 「ステキだろ?」

 そう笑うオーナーはもういつもの顔だ。


 「だからこの席はずっと、先生専用、なんだ」


 ひとり、


 冬が終わり高校三年生になった春、

 オレは、

 ほんとうにひとりになれたことを、

 ほんとうにひとりになってしまったことを、


 どうしようもなく複雑な感情を噛みしめながら、それでもなにかをやり遂げた気持ちで、


 なぜだか冬からまったく色を変えない鈍色の海を、


 この席から、見ていた。

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