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ダメだな、この子は。ロウには悪いけど…
「北山さん!」
突然、彼の細いと思っていたけど意外に強い腕が、オレの腕を掴んで思わぬ力で引っ張ってきた。
「ちょ、」
「見てください! 海!」
cafe mellow、自慢の景観だった。
夏の陽に青く透ける逗子の海。
遮るもののない、海を映す空。
海岸線をなぞるように伸びる一三四号線。
海の向こうに逗子マリーナのパームツリー。
そのまた向こうに霞む三浦半島。
「北山さん、海、いきましょう!」
「え、」
「すごいキレイな青ですね! ぼく、山育ちで。海ってはじめてなんです」
両腕をいっぱいに広げて、到底抱ききれない海を抱こうとする。
「…日光が海水を透過するときに青以外の光が吸収されるから、最後に残った青い光だけが目に見える」
「精製された色ってことですね!」
……精製……
色とりどりの色が混ざる日光がカラムクロマトグラフィーを通り抜け、最後に海の青色が三角フラスコに滴って落ちてくる様が脳裏によぎる。
会話を終わらせたいと加えた説明は、するりと受け入れられてしまった。
この子は、
「…理科?」
「さっすが! 探偵さん!」
ビシッ、と、愉快そうに人差し指を向けてくる。よくできました! て、感じだ。
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