12

 ダメだな、この子は。ロウには悪いけど…


 「北山さん!」

 突然、彼の細いと思っていたけど意外に強い腕が、オレの腕を掴んで思わぬ力で引っ張ってきた。

 「ちょ、」

 「見てください! 海!」


 cafe mellow、自慢の景観だった。


 夏の陽に青く透ける逗子の海。

 遮るもののない、海を映す空。

 海岸線をなぞるように伸びる一三四号線。

 海の向こうに逗子マリーナのパームツリー。

 そのまた向こうに霞む三浦半島。


 「北山さん、海、いきましょう!」

 「え、」

 「すごいキレイな青ですね! ぼく、山育ちで。海ってはじめてなんです」

 両腕をいっぱいに広げて、到底抱ききれない海を抱こうとする。


 「…日光が海水を透過するときに青以外の光が吸収されるから、最後に残った青い光だけが目に見える」


 「精製された色ってことですね!」


 ……精製……


 色とりどりの色が混ざる日光がカラムクロマトグラフィーを通り抜け、最後に海の青色が三角フラスコに滴って落ちてくる様が脳裏によぎる。


 会話を終わらせたいと加えた説明は、するりと受け入れられてしまった。

 この子は、


 「…理科?」

 「さっすが! 探偵さん!」

 ビシッ、と、愉快そうに人差し指を向けてくる。よくできました! て、感じだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る