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 「電話、」


 対談中に、緊急の電話とやらで朧月は店の外へでていってしまっていた。

 「そっか。お仕事、忙しいんですね」

 「博士くん、きょう、部屋を見ていくだろう?」

 「はい!」

 「なら、」

 事務的なはなしだけ手ばやくすすめてしまおうと先手を打つけど、

 「ウニ、て、食べるやつですか⁉︎」

 丸い目をキラキラさせて、彼はこちらを覗き込むようにはなしてくる。


 この子、ぜんぜんはなし、聞いてない。


 「まぁ、そう、」

 「ウニがいるんですか? ここ」

 「まぁ、そう、」

 適当にはぐらかす。必要なはなしだけ、とっとと終わらせたい。おしゃべりなんかして、共有したいなにかがあるわけではない。


 それなのにこの青年は、

 「ええー! いるんですか⁉︎」

 デッキから身をのりだして眼下に広がる逗子の海を望む。


 ちょ、落ちる、落ちる!


 「どこにですか? 見えますか? 食べましょう!」

 「捕ったら犯罪だよ」

 「えぇ!」

 丸い目をさらに丸くしている。


 面倒だな…この子…


 部屋が同じってだけで。

 顔を知っている程度で。

 ビジネスライクにすませたい。

 会話を要求されるなんて想定外だ。

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