8

 家族連れらしい少年がひとり、こちらを見つけて、バタバタとかけよってきた。


 チャムスのポロシャツにキャンピングハーフパンツ(上も下もダボついているのはファッションではなく、男の子にしては小柄な彼の体躯のせいだろう)。頭には麦わらのカンカン帽、足元はキーンのスニーカーにマーモットのバックパック。


 どこの山から降りてきたのかとゆうような出立ちのその少年は、オレたちの前までくると、ピョコン、と、小さな頭を下げた。

 拍子に、麦わら帽子が前にズレる。


 「え、と、…どちらさま?」


 て、警戒するオレを気にするふうもなく、少年はズレた帽子を持ち上げて、夏の山の香りがするとびきりの笑顔を見せた。


 「はじめまして! 小山博士です!」






 て、え、ぇぇぇぇぇ!






 たっぷり五行かけて、オレは細いと自覚している目を精一杯見開いた。どんなに目を見開いたって、なんど見たって、どうがんばって見たって、彼は、


 ガキンチョじゃねぇか!


 固まるオレの向かい、朧月が必死に笑いを堪えているのが、気配でわかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る