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 オレは、デッキの一番奥、いつもの席で、ポツリ、ひとり。


 片手には珪藻の細胞壁形成を論じた論文と、もう片手にはコーヒーの大きなマグを持ち上げたままの格好で海を見つめていた。


 「またまた先生、そんな小難しいもの読んじゃってぇ」

 スタッフや常連サーファーらが笑いながら軽く肩を叩いてゆく。

 (三浦半島の先っぽにある水産試験場に勤務しているからか、いつもひとり論文を読んでいるからか、オレは「先生」なんて呼ばれていた)


 呆けていたとこに呼ばれて顔を上げると、元ルームメイトの朧月ろうづきだった。


 他の客を軽い挨拶で躱しながら小走りでやってきて、

 「せめてコーヒーくらいアイスにしろよ!」

 なんて笑いながらオレの向かいにどかり、座る。

 オレは無駄に伸びて二人席に収まらない脚を半分無意識に引っ込めた。引っ込み忘れて投げ出したままにしていると、ロウは無遠慮に蹴飛ばしてくるからだ。

 好きでこんな長身になったわけじゃないのに、酷い仕打ちだ。


 「てかさぁ、あっつくないの?」

 オクスフォードシャツにスラックスのオレを見て、彼は大袈裟に顔を顰める。

 「いや、とくに」


 いや、実は暑い。


 が、彼のようなご機嫌な格好で決めるほど休日に興味もない。

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