2
オレは、デッキの一番奥、いつもの席で、ポツリ、ひとり。
片手には珪藻の細胞壁形成を論じた論文と、もう片手にはコーヒーの大きなマグを持ち上げたままの格好で海を見つめていた。
「またまた先生、そんな小難しいもの読んじゃってぇ」
スタッフや常連サーファーらが笑いながら軽く肩を叩いてゆく。
(三浦半島の先っぽにある水産試験場に勤務しているからか、いつもひとり論文を読んでいるからか、オレは「先生」なんて呼ばれていた)
呆けていたとこに呼ばれて顔を上げると、元ルームメイトの
他の客を軽い挨拶で躱しながら小走りでやってきて、
「せめてコーヒーくらいアイスにしろよ!」
なんて笑いながらオレの向かいにどかり、座る。
オレは無駄に伸びて二人席に収まらない脚を半分無意識に引っ込めた。引っ込み忘れて投げ出したままにしていると、ロウは無遠慮に蹴飛ばしてくるからだ。
好きでこんな長身になったわけじゃないのに、酷い仕打ちだ。
「てかさぁ、あっつくないの?」
オクスフォードシャツにスラックスのオレを見て、彼は大袈裟に顔を顰める。
「いや、とくに」
いや、実は暑い。
が、彼のようなご機嫌な格好で決めるほど休日に興味もない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます