第二章ー10 『昔の友だち』

⚫『昔の友だち』


 はやる気持ちを抑えて、しようたはペダルを踏む。ぐもと落ち合うべく塾に向かっていた。

 南雲にはすでに『いい報告がある』と連絡を入れている。

 放課後になると、クラスのみんなから「すごいな」と好意的な声をかけられた。

 目立ちたいわけじゃないのだが、ちやほやされるとそりゃあ……うれしくないと言うのは、うそだ。

 でもできれば早く、自分を信じて応援してくれた人と、分かち合いたかった。

「いやでも……はしゃぎすぎだろ」

 自転車をぎながら独りごちる。

 目標を達成して、応援してくれた誰かと喜んで、そんなの真っ当な受験生みたいじゃないか。そんな、人に自慢できるものじゃないのに。

 でも今日だけはいいかと、開き直る。

「あ──────! じまっ!」

「ん……おおおっと!?」

 しようたは急ブレーキをかける。

 目深にかぶった黒の帽子。パーカーのファスナーを限界まで引き上げて、顔はほとんどうかがえない。全身モノトーンの……ぐもだった。

 塾に行く途中で、落ち合うことができた。

 正太が自転車を止めると、南雲が勢いよく走ってきて自転車カゴにぶつかった。おい。

「ど、ど、どうだった!? いい報告って言ってたから……でも期待しちゃダメだよね! まったく一ミクロンも期待してないよ! ああ、深呼吸、深呼吸……」

「まったく落ち着けって! 本当に全然、別にどうってことないし、スマホで伝えちゃっても、もちろんよかったんだけど! まあでも南雲には直接の方がいいかなって思ってさ! ほら、色々巻き込んじゃったところもあるしね!」

「落ち着いて、真嶋。興奮しすぎ。逆にこっちは冷静になれたよ」

 どうどう、と南雲が手でジェスチャーする。

 そ、そんなに興奮していたか……?

「じゃあ、早速結果を。で、先に言うと、あのすがわらは学年で十四位らしいんだけど」

「……普通によくてムカつくな」

「僕は、三位だったから」

「三……三位!? つまり、それは……」

「勝ったって、ことだ」

「勝った……ていうかもはや完全勝利……」

 南雲はほうけた顔でつぶやく。徐々に理解が染み渡るかのように、笑顔が満ちていく。

「やったじゃん……真嶋! よっしゃあああああああああ!」

 拳を突き上げる南雲に釣られて、正太も万歳した。

 この快感は、ちょっとヤバいかも。

 誰かと喜べることが、こんなにもぞくぞくすることだなんて──。

「──そら?」

 ふいに声がして、振り向く。

 ふじはや高校の制服を着た女子だ。知り合いじゃないが顔はよく見る。同学年だ。

 道端で騒ぎすぎたか。また、同級生に見つかってしまった。

ぐもの知り合い……え。な、南雲?」

 鼻先とほおは見えても、目元なんてほんのちらりとしか見えない。

 にもかかわらず、南雲の顔が真っ青だとわかった。

 がたがたと、立っていられないくらいに足が震えている。

 前にすがわらと会った時でさえ、これほどじゃなかったのに。

 体を支えようとしようたが手を伸ばす──ばしん。その手が振り払われる。

「え──」

 南雲は背を向けて走り出す。

 わけもわからず、正太はその背中を見送ることしかできなかった。

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