第9話 犯人像を探る① 犯人は顔見知りか否か

 前話までで、事件説が最有力であることの説明はした。

 と言うか、遺留品や遺骨、美咲ちゃん失踪当時の確定的な状況から憶測をまじえず判断すると、そうとしか考えられないのだ。


 では、事件だとすると、誰が犯人なのか……。

 この一点に問題が集約されてくる。


 しかし、現状で警察が発表している情報や、マスコミ報道だけでは、推測をまじえて話をしないと犯人像はつかめない。



 個人的には、犯人像を探ることに躊躇があった。


 何故かと言えば、これは人、一人が亡くなっている件だからだ。

 いい加減な推測で書いていいことでは絶対にない。


 特に、確たる証拠もないのに、個人名や特定の存在を、

「怪しい」

と言うのは、厳に慎まねばならないことだ。


 ただ……。

 極力、推測を排除し、犯人像を絞り込むことは出来そうだ。


 なので、ここからも確定できない点については、今まで通り率直に、

「分からない」

「何とも言えない」

と書いていこうと思う。



 第9話、表題の、

「犯人は顔見知りか否か」

については、かなりハッキリ結論が得られると思う。



 まず、「顔見知り」の定義について述べておく。


 ここで言う顔見知りとは、美咲ちゃんが顔や素性を知っている人達のことだ。


 具体的に言うと、一緒にキャンプに来ていた人や、美咲ちゃんの自宅近辺の人間関係、家族だ。



 一緒にキャンプに来ていた人に関しては、犯人である可能性を否定できる。


 根拠は、2019年9月21日、つまり、美咲ちゃんが失踪した時のアリバイを警察が聴取しているはずだからだ。

 現状で警察が事件と事故の両面で捜索、捜査している以上、一緒にキャンプに来ていた人にはアリバイがあったと言っていい。


 そうでなかったら、重要参考人として必ず浮上しているので、この線は否定できる。


 美咲ちゃんが失踪した時、30分とおかずにキャンプに参加していた方々で探し始めているので、美咲ちゃんが最後に目撃されてから捜索開始の間にアリバイのない人は当然怪しまれる。


 しかし、そんな存在をほのめかすような報道も証言も一切ないのだから、警察もキャンプに一緒に来ている人を疑ってはいないと言い切っていいと思う。



 美咲ちゃんの自宅近辺の人間関係についても否定できそうだ。


 美咲ちゃんと家族は千葉県に住んでいるので、自宅近辺の人間関係は基本的に千葉県の人達だ。

 キャンプ場がある山梨県の道志村とはかなり距離が離れているので、交通手段は自動車やバイクに限られる。


 まあ、電車で移動して、最寄り駅からバスで道志村を目指すことも可能だろうが、美咲ちゃんを拉致するにしても、殺害するにしても、自動車がなければ犯行自体が著しく困難であろうし、犯行後逃走するにしてもバスで逃走するのでは目立って仕方がないはずだ。

 よって、交通手段は自動車かバイクとしか考えられない。


 道志村は、山梨県と神奈川県の県境に近いところにあるので、周辺を走っている自動車やバイクは、基本的に山梨県内のナンバーを付けているか、神奈川県のナンバーを付けている。


 だとすると、千葉県内のナンバーを付けている自動車やバイクが走っている可能性は極めて少ないはずだ。

 Nシステムに引っかからずに千葉県内のナンバーの自動車やバイクが、道志村周辺に出没することは、極めて難しいと言えるだろう。


 そもそも、美咲ちゃんは当時小学一年生だったのだから、免許取得可能な年齢の人と人間関係を持つこと自体が少ないはずだ。

 その数少ない人の中の一人が、美咲ちゃんがキャンプに行く予定を知っていて、道志村まで追いかけて来て犯行に及ぶということ自体、かなり可能性が低いと言える。



 家族で、当時キャンプに来てなかったのは、美咲ちゃんのお父さんだけだ。

 美咲ちゃんがキャンプに行くことを知っていた数少ない免許取得可能な人物という点で、一応、検証しておく。


 美咲ちゃんのお父さんについては、後からキャンプに行くことになっていたそうだ。

 仕事の関係で後の合流という形になったのだそうだ。


 当然、警察はこの辺の足取りについても裏付けはとっているだろうから、もう、この時点でお父さんの犯行は不可能に近いと言えるだろう。



「だけど、お父さんが美咲ちゃんを知っている他の人に依頼した可能性は?」

勘繰る人は、こういう可能性を指摘するだろうが、その線も極めて薄いだろう。


 もし、依頼された人間が、千葉県内のナンバーが付いていない自動車やバイクで道志村に辿り着いたとしても、美咲ちゃんが一人になるタイミングを計れる訳ではないからだ。


 美咲ちゃんが一人になったのは、ジャンケンで負けてお菓子を食べるのが遅くなったからという偶然があったからだ。

 その偶然のタイミングが無ければ、美咲ちゃんが一人になることは無かった可能性の方が高い。


 その低い可能性に賭けて、わざわざ道志村のキャンプ場まで犯行に来るだろうか?

 まあ、まず無いと言って差し支えないだろう。


 普段の生活の中で一人になるタイミングを、犯行を教唆したお父さんとともに作り出した方が、圧倒的に現実的だから……。



 結論は、

「犯人は美咲ちゃんの顔見知りではない」

としか言いようがない。


 今でも顔見知り犯行説を唱えている人もいたりするが、状況や警察の捜査の仕方からして、その可能性は無いと私は思う。

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