第5話 事件説を否定する根拠は二つだけ

 失踪当初から根強く言われているのが、この事件説だ。

 つまり、美咲ちゃんが本人ではない誰かに連れ去られたか、殺害されたとする説である。


 現在では、美咲ちゃんが亡くなったと断定されているので、事件説=殺害された、と言って良いと思う。



 事件説は、支持する人が減っている印象がある。

 美咲ちゃん失踪当時は事件説が多かったが、美咲ちゃんのお母さんの関与が完全否定されてからは、事故説に傾いていった気がする。



 では、何故、事件説は支持が少ないか……?

 この理由は、一点に集約されると思う。


「警察が事件と断定しないから」

シンプルだが、これが最大の理由であろう。



 警察が事件と断定しないのは、事件と断定するだけの証拠が無いからだ。

 特に、遺骨や遺留品が見つかっていなかった時分には、証拠どころか美咲ちゃんが失踪したという事実以外は何も無かったのだ。


 美咲ちゃんのつけたと思しき靴跡は見つかってはいたが、滑落説でも述べたように、それが必ず美咲ちゃんがつけた靴跡だと証明することもできなかった(靴跡の鑑定は、実物の靴と照合し一致してはじめて証拠になるから)。


 日本の警察が優秀だと言っても、証拠が何も無いのでは事故か事件かの判断なんてできっこない。

 逆に、

「優秀な警察やボランティアの人達がこれだけ証拠を探して見つからないのだから、事件ではなかったのではないか?」

と考える人が出て来ても、それはあながち間違った考えだとも思わない。


 こうして、事件説は次第に支持を失っていった。


 つまり、事件説を否定する二つの理由の内の一つは、

「警察が事件と断定しない(断定できない)から」

ということになる。



 しかし、これはあくまでも支持が少なくなっただけで、事故か事件かの真相解明にはまったく関係がないことは言うまでもない。

 ずっと真相が分からない状態であることは間違いないが、事実関係を決定付けるような根拠にも当然ならない。


 しかも、最近は遺留品や遺骨が次々に見つかっているのだから、それらの証拠をもとにもう一度考え直す必要があるのではないだろうか?



 事件説を否定する理由のもう一つは、

「山中で遺骨や遺留品が見つかったから」

というもの。


 山で遺留品や遺骨が見つかったのだから、亡くなったのも当然、山で……。

 美咲ちゃんに関与したと具体的に浮かび上がってくる人物もいないので、事故説が妥当という考え方だ。


 これはある意味最も自然な考え方ではある。


 そして、この考え方の延長線上に、

「もし事件で美咲ちゃんを殺害した犯人がいて、衆目の監視の中なのに遺留品や遺骨を後々山に置きに来たとしたら、とてもリスクが高く過去の多くの例からもそんなことをするメリットがないので、遺留品や遺骨が見つかっている以上、事件説は考えにくい」

という考えがあって、事件説は遺留品や遺骨が山中で見つかったからこそ否定できるとされている。


 前述した元警察官の小川氏などもこの意見で、事件説を否定する根拠にあげておられる。



 しかし……。

 どう考えてもこの理由はおかしいと思うのだ。


 何故か……。

 犯人像も絞り込めていないのに、犯人が何をメリットに感じているかなんて分かるはずもないからだ。


 後に犯人が遺骨や遺留品を現場に置きにくることが少ないというのは事実であろう。

 犯罪捜査の専門家だった小川氏が言うのだから間違いないだろうし、実際、そう言われれば説得力はある。


 だが、東京・埼玉連続幼女誘拐殺傷事件の犯人、宮崎勤のように、遺体を遺族宅に送りつけたり、犯行声明を新聞社に送ったりした事例もある以上、もし美咲ちゃんが殺害されていてその犯人が存在した可能性があるのに、犯人が現場に遺棄しに戻ってくることはないという理屈だけでそれを否定するのは、とても危険なことだと思うのだ。


 だから、小川氏もこれを理由に事件説を完全に否定してはいない。

 ただ、

「非常に考えにくい」

と、相当に有り得ないケースで、美咲ちゃん失踪には当てはまらないのではないかと言っているだけである。


 つまり、あくまでも印象論に過ぎないのだ。



 昨日(2021年5月25日)、右腕の骨と左すねの骨が、美咲ちゃんのモノだと断定された。

 そして、今日、新たに人骨と思われる骨が二つ、今まで美咲ちゃんの遺留品や遺骨が見つかっている枯れ沢で見つかった。


 遺留物や遺骨が見つかれば見つかるほど、事故説が強まるが、はたして真相はどちらなのか……?


 私は、遺留物や遺骨こそが、事件説だと語っているようにしか思えないのだが。

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