第3話 鳥獣に襲われた説も完全否定できる
美咲ちゃん失踪当初に言われていた説の中で、事故との見方で約半数を占めていたのが、この鳥獣に襲われた説だ。
道志村の近辺にはクマが出るという情報もあり、実際に、
「くまに注意」
の看板も設置されている。
クマ以外にも、小学1年生の美咲ちゃんを殺害するに至るような可能性のある動物は、イノシシや野犬なども考えられ、冷静に看て、遺留品が見つかるまでは有力な説であったように思う。
それなのに何故、今は完全否定できるか。
理由は二点ある。
一点目の理由は、失踪直後から大規模捜索が終わるまで、数多の人が山に入り捜索したのに、美咲ちゃんと思しき遺体を見つけられなかったからだ。
と言うのも、山で動物が死骸になると、必ずそれにたかる動物や鳥が出現し、死骸を食らうことになる。
それはもう見事なくらい必ずたかる動物や鳥が出てくるのだ。
しかし、捜索隊の誰もそんな場面には遭遇してはいない。
だとすると、遺体は地中に埋められていたか、山には無かったかしか考えられないのだ。
こう書くと、
「美咲ちゃんを殺害した動物が、あとで食べるために地中や他の動物にたかられない場所に移した可能性だってあるでしょ」
という反論が出そうだ。
だが、それは二点目の理由が否定している。
二点目の理由は、美咲ちゃんの黒いシャツが、ほぼ破損のない状態で見つかっているからだ。
これは警察発表なので間違いない事実だ。
シャツ……。
つまり、上半身を覆うモノが破損のない状態で見つかるというのは、鳥獣が美咲ちゃんを食べる時にシャツが邪魔にならなかったことを意味する。
普通にシャツを着ている状態の遺体を食べるのなら、鳥獣は間違いなくシャツを食い破るか爪で割いて排除するかするはずだ。
その痕跡がないということは、動物が遺体を食べる時に少なくともシャツは脱げかかっていたか、完全に脱げてしまっていたとしか思えない。
シャツを脱いだ状態で亡くなったご遺体を動物が食べたと考えることは一応できる。
しかし、それは、美咲ちゃんの死因=鳥獣に襲われた、ことを意味しないし、そもそもシャツを脱いだ状態で亡くなることはほぼ有り得ない。
何故か……。
その場合には美咲ちゃん本人の意思でシャツを脱いだ可能性しかないからだ。
山中で少女が一人きりでいて、シャツを脱ぐ状況が起こる可能性は極めて低いとしか言いようがない。
なので、ご遺体が亡くなった当初の場所から動いた時に鳥獣が関与した可能性は、わずかでもあるかもしれないが、美咲ちゃんが鳥獣に襲われたから亡くなったという説は有り得ないのだ。
黒いシャツと同様のことが、靴下にも言えると思う。
靴下の場合はDNAの痕跡を示すようなモノがまったく付着していなかったそうだし、ほぼ破損なく見つかったそうなので、遺体になった時には脱いだ状態であったことは間違いないだろう。
この鳥獣に襲われた説は、遺留物が発見されるにしたがってあまり見かけなくなったと思う。
だとすると、世間の大方が同様の見方をしていると考えて良さそうである。
ちなみに……。
ある猟師の方が言っていたが、遺骨があまり見つからないのは、獣が骨を食べてしまった可能性があるからだそうだ。
実際、犬なんかは動物の骨をバリバリと食べてしまうから、他の肉食獣が食べてもそんなに不思議はないと思われる。
これで「美咲ちゃんのお母さん犯人説」と「鳥獣に襲われた説」は否定出来たと思う。
あとは「滑落説」と「事件説」であるが、はたしてどちらが正しいのだろう?
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