第3話

 榊原心菜・高校2年生は突然のことで大変驚いていた。

 簡単に説明すると、生徒会主催のクリスマスイベントの後夜祭で中庭の木々に飾り付けをしたイルミネーションを1人で見ていると金井がやってきて、気付くとキスをしていた。

 何が起こったのか、なぜそうなったのか、心菜には理解のしようがない。


 まず、彼氏と2人でイルミネーションを見たいからと翠子はその彼氏と共に中庭へ見に行った。何もすることがなくなった心菜は、誰もいない教室から1人で見ようと思った。暖房の効いていない教室で冷たい夜風に当たりながら、マフラーをぐるぐる巻きにして窓の支えに寄りかかって物思いに耽っていた。『金井先生は今、きっと学校の風紀見回りをしているのかな』などと。

 『こんなところで1人で何しているの?』という声が聞こえたので振り返ると、教室のドア付近にスーツにマフラー姿の金井が立っていた。その胸には風紀担当の文字の入った教員証をぶら下げていた。この頃になると金井と心菜は特別な関係になっていたのかもしれない。金井は他の教員にも、生徒にも見せないような表情を心菜に見せていた。2人がどうこうということはまだなかったが、高校生同士で言うところの『友達以上恋人未満』な関係であった。


 「翠子は中庭デートなので、それなら私は1人で静かにイルミネーションを見ようと思って・・・。先生は・・・風紀業務ですね。」

 「ああ、今日は学校中の風紀が乱れているからね。弾む気持ちもとても分かるよ。」


 『全く・・・』と言いつつ、金井は2人分の椅子を心菜の近くに置いた。その内の1つに座りながら心菜が座るようにもう1つの椅子をポンポン叩く。


 「最近はどうだ?学級とか、勉強とか。」

 「勉強は順調です。ただやっぱりリアルに充実している人たちを目の前にするとちょっと滅入りますね。」

 「どうして、滅入るのだ?」


 金井は心菜の気が滅入る理由を知っていながらも、敢えて彼女にそれを聞く。そういったところがとても意地悪なのである。こういった駆け引きも、恋愛を楽しむためには必要なのだとあの中庭ベンチでの出来事の少し後に心菜は理解した。『えーと・・・』と答えに困っていると、金井はクスリッと微笑んだ。


 「知っているか?今現在、この階には僕達しかいないんだ。」


 心菜は金井の言葉の裏を見たかったが、今回ばかりはどうしても見ることができなかった。その予想すら立たない。すると金井はまた言った。


 「風紀だなんて、本来僕には似合わない仕事なんだ。その意味が分かるかな?」

 「え?どういうことですか?」

 「つまり、こういうことだ。言葉で示すより、行動で示した方が速いとね。」


 金井の唇が近づいてきて、気付いた時には触れていた。心菜は何が起こったのか一瞬分からなかったが、少ししてからキスをしたのだと理解した。その瞬間、心菜は耳までと言わず、足の先まで体が真っ赤になって熱くなるのを感じた。真っ赤な顔を金井に気付かれたくなくて、下を向くと金井は心菜の顎を掴んでまた優しく、今度は先程より少し深くキスをした。


 「ほら、僕は風紀担当教師失格だろう?」


 心菜は金井に押し倒されたが、彼を拒まなかった。そのまま深く深く、繰り返しキスをした後に金井を見つめながら潤んだ瞳で心菜は言った。


 「いいんです。先生は私のリアコだから・・・。」

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私のリアコは先生です! 玉井冨治 @mo-rusu

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