第3話 痴漢に逢う。助けられる。何故か逆ナンされる

──私はその日、今まで経験したことがない程の衝撃と感情に襲われた。


 今から6年前のことだった。私はその日まで所謂「かっこいい」とか「イケメン」というものが分からなかった。


 よく同級生がアイドルに対してかっこいいとか同級生の子にイケメンだとか言っていたけど、私はよくそういうものがわからなかった。


「え!!? なんで断ったの!?」


「かっこいいのになんで」


「……だって好きでもないし」


 いわゆる周りから見て私は【変わっている】と思われていたと思う。友達いわく学校一のイケメンに告白されたこともあったけど私の中では全然ピンと来なかったし、顔がいいだけで付き合うのはそれは全然違うと思った。それに、顔がいいだけで性格が悪かったら嫌だ。


 周りの話にはついていけなかったし時々皮肉を込めた陰口も聞こえてきたことだってあった。別に気にしはしなかったが心のどこかで突っかかることがあったのはたしかに事実。こんな日々が続くのかなと思っていたある日、私の日々を大きく変える出来事があった。


「あれ」


 私はその日家に忘れ物を取りに行き、先頭集団に追いつこうと走り出した時だった。


「んぐっ!?」


 突然、後ろから口元にタオルが巻き付けられた。ハッと後ろを向くと知らない男が3人くらいいた。


「くそっ。動くなガキ」


「すまねぇなお嬢ちゃん。これも仕事のもんで」


 声を出そうにも恐怖で声が出ない。抵抗しようにも体が動かない。私はただ泣くことしか出来なかった。そんな時だった。


「動くなってい……グハッ!!」


 私を縛りつけようてしていた男性が勢いよく飛んで行った。その瞬間、まるでゴミを踏み付けるかのようにその男性の頭を踏み付ける1人の【男性】が見えた。


「なんでゴミがゴミ箱から出てんだよ」


 その男性はタバコを吸いながら目の前の2人をじっと見つめていた。踏みつけられてる男性はあまりにも衝撃だったのか完全に気絶していた。


 明らかに男性と言うには、あまりにも高く綺麗で透き通るような声と低い身長、そして可愛い顔だった。


「なんでお嬢ちゃんみたいな子がここに?」


「は? お嬢ちゃんじゃねぇよ」


 吸っていたタバコを手で握りつぶし勢いよく道を飛び出し、傍らにいた男性の顔面に目掛けて拳を振りかざした。


「ひっ……」


「そのナイフ、どうするんだ? 来るんじゃねぇの?」


 その優しい声からは想像できないくらいの殺意の籠った言葉と怒りが籠った顔に怖気付いたのか持っていたナイフを落とし男性は一目散に逃げ出した


「うぅっ。うわぁぁぁ!!」


「逃がさねぇよ!!」


 裾を引っ張り思いっきり、ドシンっと音を立ててその男性は地面に打ち付けられる。動かなくなったことを確認し男性はなにやら電話をかけ始めた。すると男性はこっちに来いと言うかのようにひょいひょいと手を動かした


「先程男性3人が一人の少女を誘拐しようとしてました。……はい、俺も少女も無事です。はい、お願いします。では」


 電話が終わると私の方に向かって歩いてくる。すると頭を優しく撫でて、優しい顔で私の方を見て笑ってくれた


「大丈夫だった?」


「……うん」


「怖かったよね。もう大丈夫だから。あ、このことは絶対に両親と先生に言うこと。後、警察の人が来てくれるからよく話を聞くこと。おじさんと約束できる?」


「……おじさん?」


「これでも一応男なんだ」


 恥ずかしそうに彼が笑う姿を見て、私は心を奪われた。今まで経験したことがない程の衝撃と感情に襲われた。


「……かっこよかった」


「そう?」


 初めて、何かを。誰かを【かっこいい】と思えた。嫌いだったタバコも何故か彼が吸っている姿だけはかっこいいと思えてしまった。


「泣かないで大丈夫かい?」


「……うん。お兄さんが来てくれたから」


「そっか。強いな」


「もう、10歳だから泣かない。お姉さんだから」


「ははっ。そりゃ頼もしいお姉さんだ」


 何気ない話をしているとパトカーのサイレンの音が聞こえてきて、その中から警察官の人が5人くらい降りてきた。


「お疲れ様です。犯人の方は?」


「ここに縛りあげてます。すみません、この子を守ろうと思い思いっきり殴ったら気絶させてしまいました」


「いえ。大丈夫です。ご協力感謝します」


「この子の保護の方よろしくお願いします。一応俺も事情聴取した方がいいですかね?」


「そうですね……。この子、どうやらあなたに懐いてしまってるみたいなのでお願いします」


「……はっ」


 私は無意識にその人の裾をぎゅっと握っていた。それを見た男性はふふっと優しく笑い困った表情を見せた。


「……そーっすねぇ。会社の方に連絡お願いしてもいいですか?」


「はい。分かりました。ではお願いします」


 私にはその人がとても輝いて見えた。私が見てきた人の中で多分、この人以上にかっこいい人は見たことがなかった。


 私はこの日、初めて【恋】というものを知った。





 ──6年後


「相変わらずモテるねぇ……。同性にも異性にも」


「私は付き合わないよ。誰に告白されようが絶対にね」


「えぇ? どうして?」


「……だって、私、好きな人いるもの」


「えぇ!? 嘘!!」


「ちなみにこの学校じゃないよ。私より年上だし」


 またあの人に会いたい。私を救ってくれたあの人に。私の人生を大きく変えてくれたあの人に。


 こんなに成長したよって伝えたい。


「おっと。ごめん、出動要請かかったから行くね」


 あなたみたいに色んな人を救えるように。かっこいい人になりたいって伝えたいから



 ◆



「えっと。ここで乗り換えか」


 休日。俺はこの日、とある少女2人と出かけることになった。事の発端は今から1週間前になる。突如、メッセージの方に「服選び手伝ってください!!」と着信が入った。なんでも凛の私服センスが壊滅的にないらしく、何故か俺が服を選ぶのを手伝うことになった。


(しっかしまぁ。出かけるくらいになるとはな)


 初めは言うて長続きしないだろうと思っていたが、いつの間にかもう1ヶ月経っていた。最近は1週間に1度くらい、うちに晩飯を食べに来るほどには仲が良くなった。もうここまで来たら近所のおっさんというより年の離れた友達である。……まぁ俺としてはそっちの方がありがたいと言えばありがたいのだが。


「あと少しで駅に着くっと」


 駅まで近くなってきたため2人にメッセージを飛ばすと後ろから何やら嫌な空気が流れ込んできた。


「…………っっ!?」


 ……軽く尻を触られたような気がする。いや、確実にこれは人の手だ。嘘だろ……痴漢かよ。よりにもよって今日、それもあと少しで着くって言う時に。


「……あの「ねぇねぇ。おじさん、この手何?」」


 後ろにいた男性に声をかけようとした瞬間、身長165cmくらいの女性が男性の腕を力強く掴んでいた。


「こんなところで痴漢ってある意味凄いよねぇ。……くっそ最低だな。ほんと」


 駅に着いた瞬間、腕を振り切って逃げ出そうとする男性の腕と胸ぐらを強く掴み、駅のホームに思いっきり背負い投げした。


「警察呼んでください。この人チカンです」


 駅員さんが何人か駆けつけ男性を拘束する。俺の方に気づいたのか女性はこちらの方に向かってきた。


「ありがとうございます。……助かりました」


「いえ。大丈夫です。当然のことをしただけ……えっ」


 俺の顔を見た瞬間、女性の顔は突然と固まった。……あれ。俺、なんかした? まさか泣きかけてる俺。


「うっ、嘘。え。え? なんで、なんで」


「え?」


「……ずっと。ずっと探してた。ずっとあなたを探してた」


 ……ずっと探してた? 


「お兄さんですよね!? あの時私を助けてくれた!!」


 嘘だろ。こんな偶然、あるのかよ。


「もしかして、君、あの時の誘拐されそうになってた」


「そうです!! お兄さんに助けて貰った子どもです!!」


「……でっかくなったなぁ。今16?」


「はい! そうです!! 覚えててくれてたんですね……。嬉しい……」


 ……確かにあの時の子供だ。でもなんか、どっかで見たことあるんだよな。どこでだ


「あ、あの。おにーさん。……事情聴取終わったらでいいんですけどその……。どこかでお茶でも飲みませんか!?」


「……え?」


「だ、ダメですか?」


「いや。えっと、俺今日連れがいるんだ。でも助けてくれたしその恩人の頼みを無下にするには……」


「お連れさんですか?」


「あぁ」


「なら、そのお連れさんも一緒で大丈夫ですよ。お兄さんの知り合いなら大歓迎です!」


 俺これ知ってる。これ、漫画とかでよく見る逆ナンパってやつだ。あの時助けた子供に俺、逆ナンされてる

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