第2話 Q:魔法少女になりませんか?A:なりません

 この国には魔法少女が存在している。アニメみたいにグループで活動している人もいればコンビで活動している人、中にはソロで活動している人たちもいるらしい。


 いつ魔法少女が日常的なものになったのかは今でも不明だが一説によれば【怪奇】と呼ばれる存在が活発化してから公に知られるようになったと言われている。


「適当に座ってて。親御さんには連絡した?」


「はい。大丈夫です。元々今日は外食の予定だったので」


「なんかキンチョーするね」


 俺は今、助けてくれたお礼というわけで2人の魔法少女に晩飯を作ることになった。別に下心はなく単純な恩返しだ。初めは断られるかと思って半分以上は冗談で言ったものの、思った以上に食い付きがすごく道端でパタリと倒れられても困るので家にあげることにした。


「嫌いなものは?」


「大丈夫です!」


「はい。私も大丈夫です」


 ……今思えばアラサーのおっさんが少女2人を家にあげてるの事案じゃね? ……。


「ま、食べてもらったらすぐ帰ってもらったら大丈夫か」


 決して自分の見た目的に大丈夫だとか。そんな悲しい現実から逃げたいんじゃない。……俺だってもう成人かなり超えてんだけど。


「部屋、広いですね」


「時々妹が来るからね。あとはここら辺に借りれる部屋がここしか無かったからかな」


「妹さんいるんですね」


「そこに乗ってる写真の左側だよ」


「お姉さんにすごい似てますね……」


「いや俺、男なんだが」


 やっぱりこうなるんだよなぁ……何回言っても誰にも信じてくる無い。なんなら妹も普通に【姉さん】呼びだし。あいつは俺の性別知っててあえて言ってるんだからタチ悪い。別に悪気があって言ってる訳では無いのだが。


「これでもあいつでは10歳離れてるんだよなぁ……」


「そうなんですか!?」


「俺は28。妹は18。だから親が忙しくて授業参観行けなかった時とかは俺がよく行ってた。だからか何故かはわかんないけど両親より懐かれたんだよ」


「よく勘違いされませんでした? 若いお母さんですねって」


「よく言われたよ」


「今でも普通に15歳って間違われそうだけど……」


「タバコ買う時はわざわざ身分証明証見せないと買えないんだよな。最近は吸ってねぇけど」


 最近は体に悪いためタバコミュニケーションをするぐらいにしか吸わなくなった。自分で言ってて悲しくはなるが、この容姿でタバコを吸うのは多分絵面的にもまずい。


「ほい。豚のしょうが焼きとシーザーサラダ。すまんな適当なものしか作れなくて」


「いえ全然大丈夫です!」


「本当にありがとうございます! ……美味しそ」


「料理は俺の唯一の特技みたいなもんだからな。味だけは保証するよ。俺は後で食うから遠慮せず先に食べてな。ちょっとシャワー浴びてくる」


 さすがにずっと走っていたからか服の中が蒸れて気持ち悪い。汗でびしょびしょな服ほど気持ち悪いものは多分そうそうないと思う。……多分。



 ◆



「おっ。食ってる食ってる」


 シャワーからあがるとよほどお腹がすいていたのか美味しそうに食べているふたりが見えた。


「すごく美味しいです! えっと……」


 名前。そういや言ってなかったか。


「雫。天草雫」


「美味しです! 雫さん!」


「そりゃよかった」


 前まで妹がよく来ていたが、最近あいつは研究で忙しく数ヶ月くらいは1人で飯を食べることが多かった。だから久しぶりに人に自分の料理を褒められて俺自身も嬉しかった。


「そういやお嬢ちゃんたちは制服的に浅葱ヶ丘高校?」


「はいそうです。1年の早崎凛です」


「同じく1年の上原柚子です」


「浅葱ヶ丘って言えばここら辺でも有名な進学校だよな。やっぱり頭いいの?」


「えっと……そんなに」


「真ん中くらいです」


 浅葱ヶ丘高校はここら辺では三本指に入る名門校だ。そこで真ん中くらいと言えば偏差値65くらい。……普通に頭いい


「進路とかはさすがにまだ早いか」


「そうですね……。まだ具体的には考えてないですね」


「大学進学をとりあえず目標にしてる感じです。……あーでも大学に行ったら魔法少女辞めないといけないよねぇ」


「忙しくなるからか?」


「そうです。一応これでも3年以上はずっと続けてるんですよね」


 つまりこの子たち、早くて小学生6年から、遅くても中学入学くらいからずっとやってるのか。……凄いなそこまで続けられるの


「やっぱり給料いいの?」


「先月は10万くらいでした」


「高校生でそれはかなりの大金だな」


「8万~9万は貯金してますけどね。やっぱり忙しいですし場合によっては命を落とすこともありますし」


 魔法少女と聞いて初めにメルヘンなイメージを浮かべる人が多いと思うが、実際のところはそんなに現実は明るくないのが実情だ。怪奇はいつ出るかわならないし、強さ自体もそれぞれだ。今回の怪奇は一般的だったため余裕だったらしいが、最悪の場合は命を落とす。


 15歳の少女が怪奇に襲われ命を落とし、仲間はそのショックで自殺をしたりや精神崩壊を起こしたなんて言う話は過去に数は少ないもののある。


 だが最近は魔法少女以外にも公安の内部組織に怪奇専門の組織ができるなど、徐々に魔法少女に対する負担は減ってきている。それ自体は喜ばしいことなどだが


「まぁ負担は大きいことには変わんない……か」


 些か年半ばも行っていない子供にその負担を背負わせていると考えると頭が痛い。


「雫さんも魔法少女になりますか?」


「ぶふぉっ……!!」


「柚子。どストレートに聞くね」


「いやなんか上の空だったからつい……」


「……ごホッごほ。な、なんて?」


「雫さんも魔法少女にならないかな……なんて思っただけ……です」


 ……俺が魔法少女? 28歳の? そろそろ30歳アラサーの? それもおっさんが? 


「……勘弁してくれ。色々きついもんがあるだろそれ」


「多分大丈夫だと思いますよ?」


「いやあ…………」


 誠に不本意ではあるが否定できないと言えば確かに否定できない。


「ていうか俺、魔法適正ないし」


「魔法適性はいらないですよ」


「魔法適性要らないの!?」


「魔法少女の半分くらいは魔法適正ありませんし」


「じゃあどうやって魔法使ってるんだ?」


「ステッキ自体に魔力が込まれてるんです。それを使ってる感じです」


 ……まじか。今初めて知った事実だわそれ


「……いや、別に聞いてもならないよ? 俺。なりません」


「まぁ社会人ですしね……」


「似合うと思ったのになぁ……。まぁそこら辺は仕方ないですよね」


 28歳アラサーの魔法少女(男)とか誰得だよ。


「ご馳走様でした。美味しかったです」


「ご馳走様でした!」


「お粗末さま。皿とかは洗っておくから帰りの支度でもしときな。両親さん心配するからさ」


「あ、雫さん。連絡先、交換しときませんか? もしまた今回みたいなことがあれば困りますし」


「え? 俺今回みたいなことまた起こることあるの?」


「【怪奇】という生物? の特性は見た目が可憐な少女であればあるほど狙う傾向があります」


「アラサーなんだが???」


「中身はいくらアラサーでも見た目はでも少女ですし、確かに今回のように狙われることはあると思います」


 ……初耳なんだがそんな情報と言いたいが過去に割と心当たりがあることが多すぎる。言われてみればそうかもしれない


「んー。じゃあ交換するか。QRコード出せる?」


「はいこれです」


「おっ。サンキュー。凛さんも交換しとくかい?」


「あ、よろしくお願いします。あと私のことは呼び捨てで大丈夫です」


「あ、私も!」


「分かった。あと別に敬語使わなくていいぞ。俺、堅苦しいの苦手なんだわ。交換完了っと」


「ぜ、善処します」


 こうして俺は2人の魔法少女、もとい凛と柚子と連絡先を交換し2人が帰るまで見送った。


「……うし。俺も飯食って寝るか」


 かくして俺のちょっと変わった一日は幕を閉じた。


「……そういや可愛かったな。あの二人。妹みたいで」


 そしてこれが俺の新たな日常の始まりになるとはこの時の俺はまだ知る由もなかった。

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