アラサー男子と魔法少女と超能力者と

らびっとありす

第1話 少女に少女と勘違いされる一般社会人

「はぁぁ……先輩小さくて可愛いです。癒し……」


 天草雫。28歳彼女なし独身アラサー。いわゆるホワイト企業と呼ばれる会社で働いている一般社会人。


 魔法とかが現実となった世界で特になんの能力も持たず魔法も持たずに生まれ、ごく普通に生きて、これといって人生に不満がある訳ではなく上司にも部下にも恵まれている。どこにでも居そうな一般社会人。


 ……見た目が幼いことを除けば。


「雫くんまたやられてるね……」


「課長。それ言う暇あったら助けてください」


「次のバレンタインは先輩がゴスロリ着るんですよね?」


「着ないよ?」


「でも似合いそうっすよねぇ……」


 若いと言われれば28歳の自分からしたら嬉しいことだろう。若いと言われれば。自分の場合は若いでは無く【幼い】だ。身長は152cm。体重48kg。生まれつきの女顔でウルフカット。声も普通に女声のため生まれてこの方、男だと言っても信じてくれないことの方が多かった。高校の時は女子が間違えて更衣室に連れてかれそうになった事もしばしばあった。胸がないから男だと言っても貧乳の一言で片付けられたことも。


 後輩からは遠目から見ても近くで見ても少女にしか見えないと言われ、同性から告白され、海やプールで女用水着をスタッフの人から着せられ。


「……こんな見た目、ろくな事ないぞ」


「表情が全てを物語ってる……」


 痴漢させられた時はさすがに泣きそうになった。おっさんが28歳のおっさんにセクハラをする光景を想像するだけでも今でも鳥肌が立つ。


「大丈夫です! 私が守りますから!」


「緋依ちゃんほんとに雫のこと好きだよねぇ……」


「私のオアシスなんで」


「それに関してはわたしも否定は出来ないわ。こいつ、昔からこんな感じだし」


「……俺、そろそろ帰っていい? もうタイムカード切ったから」


「あ、すみません先輩」


「いや。良いよ。癒しになれてるんだったら俺はそれで」


 今まで男子より女子と関わることが多かったから如何せん彼女が欲しいと思ったことがない。数的に言えば友達の数は女子の方が多い。モテたいと思ったことは正直1度もないし、今の生活に満足しているから今のところは何も望んでいない。


 でも結婚願望がないと言えば話は別だ。俺だって今年で28歳。いわゆるアラサーと呼ばれる年齢だ。そろそろ嫌でも結婚等のことを考えないといけない。


「めんどくせぇ……」


「また両親かい?」


「『いい人は見つかったのか』ってうるさくてなぁ……ってなんでここにいるんだよ」


「私、こっち帰り道。今日、残業ない」


「そういや会社近かったな」


 鳴上結。中学校と高校が同じで単純な友達付き合いで言えば1番長い。時々連絡を取りあっては飯を食いに行くほどの良き相談者。引っ越してからは家は遠くなったものの、会社自体の距離が近く帰り道も途中までおなじのため、時々こうやって鉢合わせになることがある。


「……相変わらずあんた変わんないわね」


「毎回会う度にそれ言うよな」


「この触り心地のいい髪も全く変わってない。ていうか肌も綺麗だし。スキンケア何使ってるのよ」


「別に市販のやつだけど」


「あんたほんとに元が良すぎるのよ……。羨ましすぎるわ」


「体重も身長も伸びない……はぁ」


「あんた今のセリフで全女子を敵に回したわよ。まぁ私だからべつにいいけどさ。それじゃ私はここで」


「またご飯食べに行こ。今度は奢る」


「楽しみにしてるわよ」


 旧友に別れを告げ、俺はいつも通り駅の方へと向かっていった。駅の方に向かうと何やら人集りが出来ており、そっと覗いてみると


「嘘だろ」


 普通に電車が運転見合わせしていた。なんでも近くで【怪奇】が現れたらしくその影響らしい。


「……歩いて帰るか」


 幸いにも自分の家は2駅先にある街だったため時間はかかるが歩いて帰れる距離だった。バスを使って帰ってもいいが、多分バスを待つ時間よりも歩いて帰る方が早くつくだろう。そう思い俺は自分の家に向かって歩き始めた。



 ◆



 確かに怪奇が発生しているとは聞いていた。確かに魔法少女がこっちに来ているとは聞いていた。でもこうなるとは誰も想像できないだろ。


「なんで俺が怪奇に追いかけられる羽目になるんだよ!?」


 おかしい。絶対おかしい。おかしいって! 


「つかなんだよこいつ!! なんで俺を追いかけるんだよ!?」


 俺は魔法少女ではない。仮に女でも少女と呼ばれる年齢ではない。アラサーのおっさんだ。そんな俺がなんでこいつに追いかけられてる? そんな魔法少女みたいなマジカルでパワーもなければ異能力もない。そこら辺にいるただの一般社会人だぞ!? 


「助けてぇぇぇぇ!!!」


「大丈夫!? 君!」


「この状況で大丈夫って言えるならそれはただの死にたがりだと思うが!?」


「ご、ごめんなさい!」


「いや、謝らなくていいからこの状況どうにか出来ない? 俺、そろそろ体力限界なんだけど」


「ま、待っててください。……りんちゃん!」


「分かった! こっちに注意を向かせたらいいんだね!」


 やばい。そろそろ足が限界だ……。


「こっちを向きなさい!!」


 りんちゃん……もとい青い服を着た少女が怪奇に向けてそういうと、今までこっちを追いかけてきた怪奇がまるで嘘だったかのようにその少女の方を向いた。


「ど、どうなってるの。怪奇って」


 あまりにも突然のことが重なったのか、頭がクラクラし始める。目の前で魔法少女が怪奇と戦っているのが見え、安堵したのか何故かは分からないが、俺はいつの間にか気を失っていた。


 ◆



「良かったぁぁ。目が覚めたんだね!」


「今回のことは本当にごめんなさい。私たちが遅れたせいで」


 ゴシゴシと目を擦り、目覚めた時には何故か俺は女の子に膝枕をされていた。


 俺を膝枕しているのはさっき戦っていたピンク髪の少女。その横にいる青髪の少女はきっとこの子がりんちゃんと読んでいた子だろう。


「……助かったよ。ありがとう」


「本当に大丈夫? 急に気を失ったようだったけど……」


「大丈夫大丈夫。年みたいなもんだから」


「「……年?」」


「君たちこそ大丈夫なの? 怪我とかはない?」


「はい。大丈夫です。魔法少女ですから」


「りんちゃんは凄いんだよ! すごく強くて頼もしくてかっこいいんだ」


「そういう柚子もすごく優しくて強いじゃん」


 やっぱりこの二人は親友なのかな……。お互いを信用しきってる感じがする。良いなぁ……青春だなぁ。青春の中にはおっさんは不要ということで、邪魔者は退散するとしますかね。


「ありがとうね。2人が助けてくれて本当に助かったよ」


「あなたが無事で良かったです」


「ほんとに良かっ……(ぐぅぅぅ……)あっ」


 なんか。お腹の虫の鳴き声が聞こえたような。


「あ、ご、ごめんなさい! 魔力を使うとその。お腹が空いちゃって」


「全く。柚子はもう少し我慢を(……ぐぅぅ)……」


 ……なるほど。この2人さてはかなりお腹が空いてるな? 


「良かったら、ご飯食べてく? 家近いから。さっき助けてくれたお礼ってことで」


「い、いえそんな。申し訳ないですよ!」


「そ、そうです! それに両親さんが……」


「大丈夫だよ。俺、一人暮らしだし」


「一人暮らしなんですか!?」


「え。そんなに驚くことある。俺もう28のアラサーなんだけど……」


「え?」


「え?」


「……ほえ?」


 ……あれ。もしかして俺、この子達と同じ年齢だって勘違いされてたパターンか?

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