第162話 ぶら下がっている

 そしてリーリャの身体を見ると顔や膝など露出している箇所に軽く擦り手傷が見えるので俺は見える箇所だけでも回復魔術で傷を癒やしていく。


 言動や行動はアレなところがあるのだが、生物学上はリーリャは女性である為見える所だけでも傷は治してやるべきだろう。


 後で傷物にされたから責任を取れと言われても困るのでそういった事前に対処できる不幸は気づいた時にすぐに対処して不幸の芽は先に積んでおくべきだろう。


 こういうのは後回しにすればするほど厄介になり、そして対処もし辛くなってくるものである。


「あぁ、私の王子様が私の傷を癒やしてくれている……でも、今日の記念になりそうな傷が消えてしまうのは寂しさを感じてしまうな。 それに、もし傷跡として残った場合はそれを理由に私を拾ってもらうようにできたというのに……。 でもこれって私のお王子様は私の事が気になるからこうやって大事に女性として扱ってくれているんだよな? あぁ、そう思ったら胸がキュンキュンしてくるんだけど……っ」


 そして俺の腕の中で何やらリーリャが呟いているのが聞こえてくるのだが、無視していいだろう。


 むしろここで『何か言ったか?』なんて言おうものなら大変な事になりそうだと俺の本能が訴えかけてくるので、俺は本能に従ってリーリャを相手にしない事にする。


 そしてフランはオリヴィアの宣言によって魔術を行使するのを止めた為突風は消え去ったので俺はそのままリーリャをお姫様抱っこの要領で抱きかかえてスロープ場にした後ろ側から歩いて地上に出ると、そのままリーリャを優しく地面に降ろそうと……降ろそうと……降ろそうと……あれ?


 リーリャを地面に降ろそうとするのだが、俺の首に巻かれた腕を一向に解こうとせず、地面に降り立つ気配が見えないんだが? というか、やはり普段から鍛えているのか腕だけで自分の体重を支えられるのかガチりとぶら下がっている。


「降りないのか?」

「……はて? 何の事だ?」


 そして降りないのかと直球で聞いてみるのだが、わざとらしく聞こえないふりをするではないか。


 このままでは俺の首がもたないので仕方がないがそのままお姫様抱っこの要量で抱き抱えたままオリヴィアがいる所まで運んで行ってあげる。


「ほら、着いたぞ。 流石にもう降りてくれ。 周囲の目も気になるしな」

「全く、つれないお方だな。 でもそこがまた良い」

「すまない、ウチのリーリャが迷惑をかけたようだ」

「いえ、特に気にしてないですよ。 それよりも足にダメージがあるかも知れないので後でちゃんと診た方がいいかも知れないですね」

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