第149話 理不尽

 そしてアーロン先生は折れた骨に響くだろうに声を張り上げながら次の模擬戦は俺とスフィアだと言うではないか。


 肋骨付近が折れても声だけは煩いという事は、もう何をしてもアーロン先生は煩いのだろう。


 普通に喋ったら死ぬ病気とかなんかに罹っているのだろうか?


「ほら、次は私たちの番である事は聞こえているでしょう? 早くしなさい」

「あぁ、すまん。 すぐ行く」


 そしてスフィアは俺との模擬戦をやる気満々らしく、ダラダラと中央へ向かおうとしている俺に向かって早くしろと言ってくる。


 ここで言い返したところでスフィアはアーロン先生とは別の意味で煩くなりそうなので言い返す事はせずにスフィアの言う通りにする。


「まったく、なんでそんなにやる気がないのか理解に苦しみますね。 普通に考えれば少しでも良い成績を取ろうと思うものですよね?」

「いや、そう言われてもな。 俺はほどほどで良いと思ってるからなぁ」

「ですが、あなたは次男でしょう? 長男ならば『どうせ実家継ぐから』とその考えになるのも分かりますが、長男より下であれば上の兄が死なない限りは実家を継げない為に、将来実家から離れた時に少しでも良い環境、それこそ宮廷魔術師や近衛兵、帝国軍の上層部に成れるように少しでも良い成績を収めようと努力するものでしょう。 欲がないのは美徳かもしれませんがそれで将来が上手くいかないなどとなれば、それはただのバカの類ですよ?」

「まぁ、俺には俺の考えがあるから大丈夫だよ」

「そうですか……まあ、何かしら考えがあるようならば良いのですけど、そのやる気のなさはもう少しどうにかした方がいいわよ? あなた、フランの婚約者なのでしょう? それで将来フランを食べさせていけるのか心配だわ」


 思わず『おどれは俺のオカンかっ!?』とツッコミそうになってしまうのだが、スフィアは悪気があってそんな事を言ったわけではなく、むしろ俺の為を思って言ってくれている為ここはグッと堪える。


 というか、ちゃんとスフィアの言うとおりに動いたにも関わらず煩かったので理不尽だと思った。


 それでもあそこで俺がスフィアの言葉に従わなかったり、少しでも言い返そうものならあの程度では終わらなかっただろう。


 まぁ、後は適当にスフィアに合わせた後、負ければ良いだろう。


 勝って注目されるのもスフィアに変な因縁をつけられるのもごめんである。


「では両者構えっ!! …………初めっ!!」


 そして、俺とスフィアが中央に着いた事を確認したアーロン先生による模擬戦開始の掛け声が響き渡る。

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