第143話 罪滅ぼし

 そんな俺の提案にアーロン先生は悩む事もせず即答で了承する。


 その選択の速さに少しだけ引っかかった為、なんで即決できたのか、何か即決できるほどの判断材料が既にアーロン先生は持っていたのか、などなど聞いてみたい衝動に駆られるのだが、その事を指摘すると『戦場では一分一秒が生死を分けるのであるっ!! 一秒選択するのが遅れただけで生死が別れる時もあるっ!!』から始まって長い長い昔話に行きかねないのでここはグッと我慢してアーロン先生には何も聞かないでおく。


 俺の経験上、おそらく魔術の講師であるガーランド先生にも言える事なのだろうが、長い年月を費やして極めた物がある老人というものは、若者にその事を聞かれると嬉々として長話をし始める傾向がある、と俺は前世でいやという程味わっている。


 例えば前世で勤めていた社長とか、通っていた学校の校長先生だとか、昔から剣道をやっていたという祖父であるとか。


 この恐ろしいところは、この老人が長く携わった物でなくとも半ば強引にそっちの方向へ話を持っていく特殊能力を持っている事と、そもそも老人は話が長いという基本スペックの高さにある。


 俺の前世の祖父なんかで例えると何か一つ話すとそっから全て剣道に持っていく程の使い手であり、小さい頃は小遣い欲しさにその長話を耐えていたものだ。


 さて、話は戻すとして俺はアーロン先生へ『従者』と言ったのだが、この場誰が合適任であるか地味に悩むな。


 そしてスフィアと組めないと悟ったダミアンよ、あからさまにやる気を失った顔をするんじゃない。 俺は君が近い未来確実に訪れるであろう『二人一組』という言葉に怯える未来から救う恩人であるのだからもう少し感謝の心を持ってほしいくらいである。


 しかしながらダミアンにその未来がわかるはずもないので仕方のない事なのだろうけれども、なんだか少しだけモヤッとしてしまう。


 そしてダミアンと組ませる従者なのだが、奴隷を含めると、手を叩けばダークエルフが、首に下げている犬笛を吹けば白狼族が、そして今俺の両脇にはドラゴノイドのフレイムと人族のキースがいるわけで……。


 流石にダークエルフや白狼族をいきなり、それもダミアンの模擬戦の相手をしてほしいという理由で呼ぶのはどうかと思うし、彼ら彼女らにも予定という物があるので緊急の場面でない限りは呼ぶべきではないだろう。


 そして、ダミアンは恐らく片思いであろうスフィアと組みたかったわけで、であればここは男性であるキースではなく、スフィアと同じ女性であり、更に美人であり胸もドラゴン級のフレイムにしてやるのが俺のせめてものダミアンへの罪滅ぼしでもあろう。

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