第122話 捧げるも
そして俺たちは賊たちの罠にまんまと引っかかり、娘を含めた子供達を助ける事ができないだけではなく、助けに来たはずの俺たちまで捕まってしまう。
こんなバカで情けない話があってなるものかと強い怒りを感じるのだが、強い感情でどうこうできるようであれば今頃俺たちは子供たちを助け出す事ができただろう。
俺たちも日々を生きる為に魔獣や獣を誘き寄せ罠にかけたりして日々命を繋いで来ているのであれば、この賊たちも俺達を罠にかけてその命を繋いでいくだけであり、その命のやり取りの中で相手が一枚上手であった。 ただそれだけである。
普段であればそんな事を考えていたのかもしれないが、その当事者となり狩られる側となった今頭では理解出来ていてもそう簡単に納得が行くようなものではない。
白狼族としての誇りなど、どうでも良い。 せめて娘だけでもと考えてしまう俺は白狼族として失格なのだろう。
「子供たちを助けたいですか?」
賊たちに担がれ、予め用意されていた幌馬車へと放り込まれ、自分の無力さや情けなさ等を嘆いていたその時、どこからともなく女性の声が聞こえてくる。
その女性の捕縛されて幌馬車に乗せられた仲間たちにも聞こえていたらしく、その声の主を警戒しつつも探しているのが分かる。
「安心してください。 我々はあなた方の敵ではありません。 そしてもう一度問いましょう。 子供たちを助けたいですか? このまま先程の場所に縛られた状態で放置されたままですと血の匂いを嗅ぎ付け数時間と経たずに野生の動物や魔獣たちに見つかってしまい、この賊たちの証拠と共に跡形もなく食われてしまうでしょう。 そして賊たちはまた別の場所で同じような誘拐を企てる。 当然子供達を助けるのですから賊も当然潰しますが? どうしましょうか?」
どこから声が聞こえてくるのか分からないのだが、確かに聞こえてくるその言葉はまるで悪魔の取引のようであった。
捧げるものは白狼族の生きざまとプライド。
悪魔は白狼族としての牙をよこせと言ってきているのだ。
しかしながらこの悪魔は一つ勘違いをしている。
俺達にはもう白狼族としてのプライドなど砕け散っており、その砕け散ったもので良ければいくらでも持っていくがいい。
それに、いまこの状況を打開できるのはこの声の主だけであるので白狼族としてのプライドが無い今の俺には悩む必要など無い。 これで子供たちを救えるのであれば安いものだろう。
「助けてくれ……娘を、子供達を助けてくれっ!!」
「分かりました」
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