第120話 有効活用

「……見つけた」


 そう呟いたのは村で一番嗅覚が優れている青年トーザが魔力を鼻に集中させる事により更に正確に、そして遠くの匂いまで感知でき、その能力を使って娘たちの大まかな居場所を特定出来たようである。


 その言葉を聞いた俺ははやる気持ちを抑えながらトーザを先頭にして山の中を疾る事三十分。


 俺の娘を誘拐した連中たちに気付かれないように一キロ程手前から走るのを止め、極力音を出さないように慎重に歩いていく。


 そしてついにそれらしい一団と縄で縛られた俺の娘やその他子供たちの姿が目に入ってくる。


 ここで飛び出せば全てが水の泡になるどころか娘の命まで危ないので今すぐにでも飛び出して奴らを血祭にしてやりたい気持ちをぐっと抑え、殺気を殺し、息を潜めて確実に一撃を入れる事ができる場所まで近づいていく。


 その間、俺と一緒に来た他メンバー四人からも今この瞬間の重要性を理解している為、周囲の空気が張り詰めているのが分かる。


「俺達を付けて来たんだろう? そこにいるのは分かっている」


 しかしながら敵もやはり人攫いを生業にしているだけの事はあり、敵と味方を広範囲で判別できる何かしらも魔術具をもっていたのであろう。


「いやぁ、今回もバカ共が釣れましたな」

「本当だぜ全く。 しかしこの方法を考えついたリーダーは頭が良いな」


 そう言いながら笑う賊なのだが、その賊の背後には賊にとって売り物であろう縄で縛られている子供たちが傷だらけになって転がっているではないか。


「どういう事だ……」

「あ?」

「なんで子供たちに手を出している? 子供たちに傷をつけたら売値にも響くはずだろう? にもかかわらず、なぜ子供たちを傷つけているんだと聞いている?」


 そしてよく見れば腕を切り落とされている者や足を切り落とされている者までいるではないか。 何ぜ、わざわざ売値が下がるような事をこの賊たちはわざわざ行っているのか俺には理解できない。


「そんなの決まってるじゃねぇか。 元々この子供たちは売るつもりは無いからだよ」


 そして賊達はそういうと『ガヒャヒャヒャッ』と下品な声で笑い始める。


「まぁ、どうせ教えたところで俺たちの不利益になるわけじゃないし教えてやるよ。 ここにいる子供達はお前達を呼び込む巻き餌だって事だよ。 そうすれば村の中でも優秀な者達、いわゆる金のなる木が自分で飛び込んでくるんだからよ。 だからあえて怪しまれない範囲でぎりぎり俺たちの匂いを追跡できるようにしたんだよ。 そして子供達を傷つける理由は、万が一雨や風で匂いを探す事ができなかった場合のために血の匂いでお前達を誘き寄せる為なんだよ。 どうせこのガキたちも村に戻られてこの事を話されても困るから殺すわけだし、有効活用だよ有効活用」

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