第119話 白狼族

 俺は部下とそんな会話をしながら今夜の活動の準備を始めるのであった。





「お父さんっ!! 私今日は川の方へ行ってくるっ!!」

「おう、あんま深入りはするなよ? あと暗くなりかけたらすぐに帰って来るんだぞ?」

「分かってるってっ! 『山は直ぐに日が暮れるから』でしょっ! もう何回も聞いたよっ」


 そう言うとまだ十歳になったばかりの俺の娘は元気いっぱいといった感じでいつも蟹や小魚を取りに川へと、まるで風のように去って行った。


 その間俺と妻は畑の草抜きや収穫をしたり、そして空いた時間には村人たちと会話しながらお茶を飲んだりと、ゆっくりした時間を過ごす。


 これが俺達白狼族での村の一日である。


 村のある場所的には山奥である為冬は当然帝都と比べれば厳しく、流通という面でも鍋や包丁といった鉄鋼製品や塩等が必要な時は麓まで降りなければならず、それはそれで不便だと思う時は多々ある。


 しかしながら都会と違い薪にお金をかける事も無ければ水だって一年中綺麗な水が飲めるのだ。


 流石に真冬であれば水路や湧き水がある場所が凍ってないか他の季節であろうとも落ち葉や落石等々、毎朝確認しなければならないので少しだけ手間と言えば手間なのだが、安全な水がいつでも飲めるといういのはありがたい。


 帝都では平民が飲む水は臭くて飲めたものではないらしく、ワインと割って飲むというを聞いたことがある。


 それに自然の恵みも多く、住み辛いという立地条件を加味してもプラスではなかろうかと思ってしまう程だ。


 それはただ単に俺がこの村で生まれてこの村で育ったからこそ、そう思ってしまうのかもしれないし、帝都での生活もまた元から住んでいる者が知っている俺の知らない利点がきっとあるのだろう。


 そんな日常が音を立てて崩れようとしている事を俺を含めて村の者は誰一人として気付くことができなかった。


 そしてその日、娘は帰って来ることは無かった。





 翌日。


 昨夜我が家の娘だけでなく、他に山菜や薪を採りに行った子供たちの半数が戻って来ていないという事で村人総出で探したのだが見つからず、翌日になった今日本格的に探す為の部隊を作り探し出すことになった。


 元々我々白狼族の子供たちを狙った犯行だったのであろう。


 その為子供たちが行くと予め言っていた場所には他の強烈な匂いで娘たちの匂いが掻き消されていたのだが、その方法は悪手であると言えよう。


 この方法は匂いを消したわけではなく誤魔化しているだけである為集中すれば、三キロ圏内であれば匂いを探し出す事ができる。

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