第108話 前世で一番輝いていた時代
そして俺たちは入学式の時に割り当てられた教室へと向かう。
その教室は手前に長方形の黒板がありそれを中心に湾曲した机が段々に高さを増しながら後方へ広がっているような形になっていた。
その教室には既に何名かの生徒が来ており、その生徒たちは誰が入って来たのか確認し、俺たちの顔を確認するや否や皆一様に興味が無くなったのか俺たちから視線を外し各々近場の席に座っている人物と会話を続けていく。
いくら公爵家や伯爵家の息子、娘といえども家督を継がないのであれば平民のような扱いをされるだろうとは思ってはいたのだがまさかここまでとは思っていなかったのでほんの少しだけがっかりする。
というのも、俺の前世で一番輝いていた時代と言っても学生時代であると言えるからである。
小学生から大学生まで、ブラック企業で勤めて家には寝る為に帰るだけという生活をしていた頃より何倍も面白く、まだ見ぬ未来に幸せな社会人生活が待っていると何の根拠も疑いもなく思っていた。
二十代半ばには結婚して子供も儲けて、三十代には一軒家を購入して……今思えば当時はそんな事を思えるくらいには本当に幸せだったんだと思う。
だからこそあのような企業があるなどとは夢にも思っていなかったのだろう。
「どうしましたの? ローレンス様」
「いや、何でもないよ。 それじゃぁ僕たちも席に着こうか」
「はいっ!」
そして俺はいい思い出と嫌な思い出を同時に思い出して固まっていると、フランがそんな俺を見て心配そうに話かけて来るので思い出に浸るのをやめて教室の後ろ、窓際の方にある席へと座る。
ちなみに教室の後ろ、窓際の席にした理由は、漫画やアニメの影響で地味に憧れていたからあであり、特に他にこれと言って理由もなければ勉学に集中するのであればどう考えても前の席の方が良いので後ろの席のメリットは無いに等しいだろう。
一度フランに後ろの席でもいいか聞いてみたところ『全然構わないですわ』と返事をくれたので俺は迷わず後ろの席へと座る。
しかしながら、俺は当初クラスメイトたちに喧嘩腰に突っ掛かられるかもと思っていたのだがそんな事もなく、授業は問題なく消費されてあっという間に放課後である。
結局は俺たちには興味がないが俺たちの後ろに喧嘩を売る程の度胸もないという事なのかもしれない。
よく見る異世界系の世界で見る『入学初日で喧嘩を売られる』という事があるかもと思っていたのだが、所詮はフィクションであるという事なのだろう。
これはこれでありがたいのだが、しかしながら今のままでは友達の一人もできずに学生生活を終えてしまうのではないか? という不安も感じてしまう。
俺はそれでも良いのだが、フランには前世の俺のように学生生活は楽しい思い出にしてあげたいものである。
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