第106話 ベアリング

「は、はいっ!! 一緒に行きますわっ!!」


 そして俺がフランを帝都の下見も兼ねて一緒に街へ繰り出そうと提案してみると、フランはまるで花が咲くような表情で一緒に行くと返事をくれる。


 ちなみにフランは実家から側仕えのメイドが一人ついてきており、フランの身の回りの世話は彼女が行う事になっている。


 そもそも俺とフランの連れてきた使用人という存在がいる時点で何かが起こるわけが無いし、そういう行為をする勇気も性壁も持ち合わせていない以上、やはり俺やフランの両親の目論見は残念ながら外れる事となるだろう。


 しかしながら、逆にこの環境でもそういう事が起こり得ると考えている俺やフランの両親は自分達と使用人との間には明確に一線引いているという事であり、あれが本来の貴族の在り方でもあるのだろう。


 そして俺は使用人や奴隷たちも一人の同じ人間だと思うし、血は繋がっていないけれども家族の一員だと思う。


 そしてお父様とは考え方が違うからと言って俺まで使用人や奴隷に対する価値観を変えるつもりはない。


 こればかりは生まれ育った環境が大きく影響しているであろうし、前世の記憶がある俺からすれば価値観が固定化してしまい今更変わるものでもないだろう。


 彼女、彼らの生き生きとした表情をみるとなおさらである。


 それに想像してほしい。 家族がいる家に彼女を連れ込んでいたすことができるのかと。


 そんなこと無理に決まっている。


 ただでさえまだフランはまだ若すぎて俺のストライクゾーン(二十代後半)外であるのにこれではどうあっても何も起こりようがないのである。


 そんな事を思いながらキースに用意させた馬車へと乗り込む。


 フランはフランで俺がそんな事を考えているとは全く思っていなさそうな上に、これから行く帝都の中心部が楽しみなのか先ほどから二本のドリルがギュルンギュルンと回転しているのが見える。


 そして俺はフランのドリルを眺めていると、幼い頃と比べて回転が安定しており雑音も少なくなっている事に気づく。


 ベアリングでも付けたのだろうか?


「ど、どうしましたの? ローレンス様。 わたくしの髪の毛をそんなに見られて……」

「いや、(回転が)美しい髪だな、と」

「あ、ありがとうございますわ……」

「でもフランの方がもっと綺麗だよ。 少し合わないだけでまた一段と綺麗になったね」

「そ、そんな……う、嬉しい……です。 で、ですがローレンス様も、その……カッコイイです……」

「うん。 ありがとう」


 とりあえずこれで俺がフランの髪の毛の回転を見ていたというのは誤魔化せただろう。

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