第97話 一人くらい大丈夫だろう

 そして俺は反射的に炎魔術を行使して焼き殺してしまう。


「流石お師匠様だなっ!! 恐らく私たちの村を襲った魔獣もこいつで間違いないだろうっ! 右目に我が姉が弓矢でつけたであろう傷跡があったからなっ!! しかしながら、我々ダークエルフでも苦戦した魔獣を一撃で倒すとは……私はお師匠様の弟子になれて幸せだと、今実感しているっ」


 そして、虫を焼いたときに出る独特の匂いが漂い始める中、シシルが俺を絶賛し始め、フレイムが『うんうん』と頷いているのが見える。


「いや、炎が弱点ってだけなのでそこそこの炎魔術が扱えれば倒せるかと……」

「何を仰っているんだ。 ダークエルフの里でこれ程の魔獣を一人で、それもこんなにあっさりと倒せるなど大人でもいないぞっ! 謙遜も過ぎれば嫌味に聞こえる時もあるから気を付けた方が良いぞ? お師匠様っ」


 いや、そうじゃない。 ダークエルフは炎魔術が苦手ってだけで俺が凄い訳ではない。


 そう言いたいのだが、その事を説明しようとしても余計に面倒くさい事になりそうなのでもう好きに言わせる事にする。


「このカマキリ型の魔獣、どうせ私達の里で食料が手に入らない事が分かると今度はこのサルたちを襲いに来たのだろう。 そしてせっかく食料にありつけられると思ったらご主人様が討伐し、死体も全て回収し始めた為怒りで襲ってきたのではなかろうか。 この食べ物に対する執着心をみても、もしかしたら産卵を控えていたのかもしれないな……」


 そして俺と違て数百年も生きているシシルは、子供の一人や二人くらい出産していてもおかしくないだろうし、産卵を控えていたであろうこの魔獣に対しても何か思う所がある──


「こいつの卵は絶品なのだが、命には変えられないから仕方ない。 もし次にお師匠様がコイツを倒す時は炎は使わないでくれるとありがたい。 卵以外も複眼や鎌は高値で売れるからな」


──という事でも無かった。


 というか、卵食うんだ……。


「う、うん。 分かった。 次からは炎魔術は使わないように善処するよ」

「かたじけない」


 そして俺達は討伐した後始末をして帰路に就く旨をシシルに伝えると、一旦シシルは村に帰って新しい師匠が出来た事、そしてその師匠が例の魔獣を倒してくれた事を報告しに行くとの事である。


 その為俺の今住んでいる実家の場所は知っているかと聞くと『魂で繋がっているから大丈夫だ』との事。


 俺としてはそのまま村で生活してほしいのだが『弟子が師匠の近くで生活するのは当たり前の事』と言って聞かないので仕方がない。


 とりあえずは性格も悪くなさそうだし、不器用な程真面目なのは今の現状を見れば分かるので一人くらい大丈夫だろう。 そう思っていた当時の俺は、ダークエルフの常識とのズレによりこの短時間で散々痛い目を見たというのにまだ自分の常識で考えてしまった事を一週間後に後悔するのであった。


 

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